【弁護士解説】No.1表示の法的リスクと事業者の対策【景表法・広告景品法務】

近年、ビジネス競争の激化に伴い、企業や事業者が自社の商品やサービスを差別化し、顧客を誘引するためにNo.1表示を用いるケースが増えています。しかし、No.1といった明確な数値は顧客の関心を引き付ける一方で、その客観性や正確性を欠く場合、法的リスクを引き起こす可能性があります。本記事では、No.1表示に関する景品表示法上の留意点や、法的リスクに対する適切な対策について解説します。

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No.1広告表示に関する直近の主な動き

No.1広告表示に関する直近の主な動き

まずは、No1表示に関する直近の動きをご紹介させていただきます。

2008 公正取引委員会「No.1表示に関する実態調査報告書」を公表
2023.3 埼玉県、接骨院運営事業者に対して措置命令(「埼玉県口コミNo1」等と表示
2023.8. オンライン家庭教師事業者に対して課徴金納付命令(「利用者満足度第1位」等と表示」
2023.12 消費者庁がサプリ事業者に対して措置命令(「30~60代女性が選ぶダイエットサプリNo1」等と表示)
2024.1 日本トレンドリサーチ、「No1調査」サービスの提供を終了
2024.2 消費者庁が不当なNo.1表示を行っていたWifiサービス事業者など6社に対して、措置命令
2024.3.15 消費者庁、ダイエットコーヒー業者に対して、特商法に基づく3か月間の一部業務停止処分を行った。
「女性に人気のダイエットドリンクNo.1」という表示を過大広告と認定。
特商法に基づき、No1表示を指摘したのは初とみられる。
2024.3.21 消費者庁長官が根拠のないNo1表示に関して記者会見
不適切なNo.1表示に関する実態調査を進めると発表した。

No.1広告の誘惑と法的リスク

多くの企業が「シェア1位」「◯◯ランキング1位」「顧客満足度No1」といったNo.1表示(広告)を利用して、顧客の注意を引こうとします。しかし、これらの表示が不当である場合、景品表示法に違反する可能性があります。

No1表示は、数値指標のため、その客観性・正確性が特に重要とされます。そのため、客観性・正確性を欠くNo1表示は、消費者の適切な商品選択を阻害することになります。

No1表示が、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、優良誤認表示(景表法第5条第1号)として、不当表示となり、景表法違反となります

景品表示法は、事業者が自社の商品やサービスを競合他社よりも優れていると示す表示を行う際に客観性と正確性を要求し、不当表示を禁止しています。

◆景表法第五条◆
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

不当表示のリスクとペナルティ

不当なNo.1広告表示が発覚した場合、消費者庁は関連資料の収集や事業者への事情聴取などの調査を行います。調査の結果、不当表示であると判断された場合、事業者には措置命令が下され、再発防止策の実施や不当表示の排除が求められます。

さらに、一定の場合には課徴金の納付を命じられることもあります。これにより、不当なNo.1広告は法的なペナルティを伴う重大な違反行為となります。

2023年8月には、消費者庁がオンライン家庭教師事業者に対して、課徴金6346万円の納付命令を下しています。

なお、課徴金制度は2016年4月1日に施行された比較的新しい制度ですが、令和2年度は15件、令和3年度は15件、令和4年度は17件と積極的に執行されています。

また、課徴金の金額は基本的に売上に応じて高額となります。非常に重たいペナルティーが課されることになります。

競合他社がやっているでは済まされない

No1広告は、消費者に対する訴求力も高く、魅力的な広告手法です。「競合他社や業界大手がやっているから、うちもやっている」という経営者の方も多いかもしれません。

しかし、今般、消費者庁が積極的に摘発に乗り出していることから、「競合他社や業界大手がやっている」というのは全く安心材料になりません。

処分の対象は広告主であって調査会社ではない

不適切なNo1広告の背景には、調査会社による結論ありきの杜撰な調査があります。広告主としては「調査会社がきちんと調査を行っており、調査会社に任していた。だまされた」と思われるかもしれませんが、処分の対象は、広告主(事業者)です。

景品表示法上、不当なNo1表示に対して責任を負うのは、広告主です

No1広告に限らず、これから調査会社を利用したPRを検討されている事業者の皆様は、調査手法が適切なのかどうかを専門家に相談をしながら導入を検討するべきです。調査会社の説明を鵜呑みにしないようにしましょう。

なお、杜撰な調査を行った調査会社は事実上、社名が公表されています。

消費者庁が懸念するNo1表示

消費者庁長官が今回、特に懸念しているNo.1表示は「印象を問うようなNo.1」表示です。

消費者庁長官は令和6年3月21日の会見で記者からの質問に対する回答の中で、次のとおり指摘しています。

今回特に問題といたしたいのは印象を問うようなNo.1ということであります。満足しているとか使い勝手とかそういうものについてはそもそも客観的なデータがなかなか取れないという中で調査をしてNo.1を取っているということでありまして、そこに二重の意味での客観性に疑義が発生しているということでありますので、今回は特に後者の方を中心に調査をしていくことになろうかと思います」(新井消費者庁長官記者会見要旨

また、会見の中で、新井消費者庁長官は、令和5年度に摘発した事例について次のとおり指摘しています。

商品あるいはサービスの「イメージ」を尋ねた結果をもって「満足度No.1」と表示するなど、およそ客観的な調査に基づくとはいえないものでありました」(新井消費者庁長官記者会見要旨

以上の消費者庁長官の会見からすれば、今後「印象を問うようなNo.1表示」について厳しく摘発がなされることが見込まれます。

No1広告表示の適切な対策と注意点

No.1広告表示を行う際には、以下の対策と注意点が必要です。

まず、公正取引委員会がまとめた調査報告書では、「適正なNo1表示のための要件」として以下を指摘しています。

①客観的な調査

②調査結果の正確かつ適正な引用

No1表示を行う際には、この2要件の遵守は必須です。

客観的な調査の実施

No.1表示の根拠となる調査は客観的であり、客観性が疑われる調査方法や結果を用いてはなりません。公正取引委員会がまとめた実態調査報告書を参考にし、適切な調査を行いましょう。調査方法のポイントは以下です。

・当該調査が関連する学術界又は産業界に おいて一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によ って実施されているかどうか

・社会通念上及び経験則上妥当と認められる 方法で実施されているかどうか

同報告書では、景表法違反となるおそれがある調査として、次のとおり指摘しています。

・顧客満足度調査の調査対象者が自社の社員や関係者である場合又は調 査対象者を自社に有利になるように選定するなど無作為に抽出されてい ない場合 

・ 調査対象者数が統計的に客観性が十分確保されるほど多くない場合 

・ 自社に有利になるような調査項目を設定するなど調査方法の公平性を 欠く場合

調査結果の正確かつ適正な引用(根拠の提供)

No.1広告表示を行う際には、その表示の根拠となるデータや調査結果を適切に提供することが重要です。客観的なデータや信頼性のある調査結果を示し、その表示が適切であることを証明することが求められます。

同報告書では、問題となる例として次のとおり指摘しています。

・商品等の範囲, 地理的範囲,調査期間・時点等の事項について,事実と異なる表示をすること, 明りょうに表示しないこと

公正競争規約の確認

業界団体が定める公正競争規約がある場合には、公正競争規約に違反しないように注意しましょう。

No.1表示に関する業界の自主ルールを確認し、適切な表示を行うことが重要です。

事前の法務チェック

No.1広告表示を行う前に、弁護士や法務部門などの専門家による法務チェックを実施することが重要です。

広告内容や表示方法が法的に適切であるかを確認し、リスクを最小限に抑えるための対策を検討します。特に、2024年3月に消費者庁長官が実態調査を行う旨表明しています。自社において、No1表示を行っている場合には、早急に見直しを行いましょう。

消費者庁への通報

消費者庁は、景品表示法違反被疑情報提供フォームを設けており、不当なNo.1広告が行われていると疑われる場合、消費者庁への通報が行われる可能性があります。

消費者庁は通報を受ければ適切に調査を行い、違反行為があれば厳正な措置をとります。企業や事業者は、法令を遵守し、適正な広告活動を行うことが重要です。

No1表示を行っている事業者の皆様におかれましては、今すぐに自社のNo1表示が法令違反となっていないか確認をするべきです。

まとめ

No.1広告表示は、顧客の関心を引き付ける効果的な手段でありますが、その適切な根拠がなければ法的なリスクを伴う行為となります。

事業者は、客観的な調査に基づき正確な情報を提供し、公正な競争を実践することが求められます。

また、消費者の立場としては不当な広告に対して警戒し、必要な場合には消費者庁への通報を行うことが重要です。結果として、適切な広告活動が行われ、市場が公正かつ透明に機能することが期待されます。

弁護士 山村真吾

弁護士 山村真吾

・ベンチャー精神を基に何事にもフレキシブルに創造性高く挑戦し、個々の依頼者のニーズを深く理解し、最適な解決策を共に模索します。|IT、インターネットビジネス、コンテンツビジネスに精通しており、各種消費者関連法、広告・キャンペーン等のマーケティング販促法務や新規サービスのリーガルチェックを得意とします。|一部上場企業から小規模事業まで幅広い業態から、日常的に契約書レビューや、職場トラブルや定時株主総会の運営サポート等の法的問題に対応した経験から、ビジネスと法律の橋渡し役として、法的アドバイスを行います。|その他マンション管理案件、氏の変更、離婚、遺言相続、交通事故等の一般民事案件にも精力的に取り組んでいます。

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