「遺言書さえ残しておけば、相続人同士のトラブルは防げる」——多くの方がそう考え、生前に遺言書を作成されます。実際、遺言書は相続人間の争いを避けるうえで非常に重要な役割を果たします。
しかし弁護士として相続案件に携わっていると、実際には「自筆証書遺言があるからこそ揉めている」というケースに数多く出会います。せっかく本人の意思を残すために作成した遺言書が、かえって相続人同士の対立の火種になってしまうのです。本記事では、自筆証書遺言がなぜトラブルを招きやすいのか、その理由と、揉めない遺言を残すための対応策について解説します。
自筆証書遺言があるからこそ揉める2つの理由
自筆証書遺言をめぐるトラブルは、大きく分けて「①遺言の解釈が争われるケース」と「②遺言の有効性が争われるケース」の2つに整理できます。
理由① 遺言の解釈が争われる
自筆証書遺言は、専門家の関与なしに本人が単独で作成できる手軽さがある一方、法的な観点から見ると表現があいまいになりがちです。典型的なのが次のようなケースです。
- 「長男に自宅を譲る」とだけ記載されており、自宅の土地・建物のどちらを指すのか、共有持分がある場合にどの範囲を指すのか、そもそも自宅とはどこを指すのかが明確でない
- 「預金は妻と長女で分ける」といった記載があるものの、どのような割合で分けるのか読み取れない
このように、財産の特定が不十分であったり、文言の意味が一義的に定まらなかったりすると、相続人それぞれが自分に有利な解釈を主張し合う事態になります。本来であれば遺言によって決着がつくはずの遺産分割が、かえって「遺言書の読み方」をめぐる新たな争いを生んでしまうのです。
理由② 遺言の有効性が争われる
もう一つの大きな争点が、遺言書そのものの有効性です。自筆証書遺言は民法上の要件(全文・日付・氏名の自書、押印など)を満たさなければ無効となりますが、方式面の不備がなくても、次のような事情から有効性そのものが争われることが少なくありません。
- 遺言作成当時、被相続人に認知症の症状があり、遺言能力(遺言の内容を理解し判断する能力)がなかったのではないかと疑われる
- 筆跡が被相続人本人のものと異なるように見え、第三者が代筆・偽造したのではないかと疑われる
- 文字が大きく震えていたり乱れていたりして、通常の自書とは考えにくい状態で書かれている
これらの事情がある場合、相続人の一部から「この遺言は無効だ」との主張がなされ、遺言無効確認訴訟にまで発展することがあります。特に認知症が疑われるケースでは、当時の診断書やカルテ、介護記録などを収集して遺言能力の有無を立証する必要があり、解決までに長い時間と労力を要します。
公正証書遺言であれば、トラブルをかなり減らせる
こうした「解釈の争い」「有効性の争い」は、公正証書遺言を選択することでその多くを防ぐことができます。公正証書遺言は、公証人が本人から遺言の内容を聴き取り、法律の専門家として文案を作成したうえで、証人2名の立会いのもとで作成されるため、財産の特定や文言の明確化について形式面のチェックが行き届きます。
また、公証人が本人と直接対面して意思確認を行うため、筆跡や代筆が争点になることも少なく、遺言能力についても公証人による一定の確認を経ることになります。
もっとも、ここで見落とされがちな重要な点があります。
公証人はあくまで遺言が法的に有効な形式で作成されているかという形式面をチェックする立場であり、「その内容が本人の意思や家族の状況に照らして本当に妥当か」「特定の相続人に偏った内容が将来の遺留分トラブルを招かないか」といった内容面の妥当性については、助言を得ることができません。
また、公正証書遺言であるからといって、必ず遺言の有効性が認められるわけではありません。
公正証書遺言であれば安心、と考えて内容を十分に検討しないまま公正証書遺言を作成してしまうと、方式面での争いは防げても、実質的な不公平感から相続人間の感情的な対立が残ってしまったり、遺言の有効性が争われたりすることがあり得ます。
納得のいく遺言を残すために——弁護士に相談しながら遺言書を作成しましょう
遺言書によって相続人間のトラブルを防ぐためには、単に「遺言書を残す」だけでは不十分で、①解釈の余地を残さない明確な内容にすること、②遺言能力に疑義が生じない形で作成すること、③内容面でも各相続人の状況や遺留分に配慮した妥当なものにすることが必要です。
これらを実現する最も確実な方法は、弁護士に相談しながら自筆証書遺言を作成することです。弁護士であれば、財産の特定方法や文言の表現について法的な観点からアドバイスできるのはもちろん、遺留分を侵害する内容になっていないか、将来的にどのような争いが生じ得るかといった内容面の妥当性についても踏み込んで助言することができます。公証人によるチェックでは得られない「実質的に揉めない遺言」を作るための視点を補うことができる点が、弁護士に相談する最大のメリットです。
なお、2020年から始まった自筆証書遺言書保管制度(法務局における保管制度)を利用すれば、方式の不備による無効リスクや紛失・改ざんのリスクは軽減できますが、この制度も申請時に形式面の確認が行われるにとどまり、内容の妥当性まで保証するものではありません。形式面の対策と内容面の対策は、別のものとして考える必要があります。
よくある質問
Q. 自筆証書遺言と公正証書遺言、結局どちらを選べばよいのでしょうか。
方式面での無効・偽造リスクを最小限にしたいのであれば公正証書遺言が安心です。ただし、公正証書遺言であっても内容面の妥当性まで保証されるわけではないため、いずれの形式を選ぶ場合でも、作成前に弁護士に相談し、内容面を含めて検討することをお勧めします。
Q. すでに自筆証書遺言を作成済みですが、内容に不安があります。今からでも見直せますか。
遺言は何度でも書き直すことができ、日付の新しいものが優先されます。すでに作成した自筆証書遺言についても、弁護士に内容を確認してもらい、解釈の余地が残っていないか、遺留分を侵害する内容になっていないかをチェックしたうえで、必要であれば公正証書遺言への切り替えを含めて見直すことができます。
Q. 遺言作成時に認知症の症状があったかどうかは、どのように判断されるのですか。
遺言能力の有無は、遺言作成当時の医師の診断書やカルテ、要介護認定の資料、遺言の内容の複雑さなど、複数の事情を総合的に考慮して判断されます。作成後にトラブルとなった場合、生前の医療記録や介護記録の収集が重要な証拠となるため、有効性に疑義が生じそうな場合は早めに弁護士へご相談ください。
まとめ
遺言書は相続人間のトラブルを防ぐための重要な手段ですが、自筆証書遺言は解釈の余地や有効性をめぐる争いを招きやすいという側面があります。公正証書遺言を選択すれば形式面のトラブルの多くは防げるものの、公証人からは内容面の妥当性についての助言は得られません。相続人全員が納得できる遺言を残し、将来のトラブルを防ぐためには、形式・内容の両面から専門家の助言を受けながら遺言書を作成することが何よりも大切です。
遺言書の作成をご検討中の方、すでにある遺言書の内容に不安がある方は、Leapal法律事務所までお気軽にご相談ください。相続案件に精通した弁護士が、ご家族の状況に応じた納得のいく遺言書の作成をサポートいたします。







