「離婚するとき、子供のために婚姻中の苗字を選んだ。でも子供が独立した今、そろそろ生まれたときの苗字に戻りたい」
そんな相談を、これまで数多くいただいてきました。
離婚をすると、法律上は旧姓に戻る(復氏)のが原則です。しかし「続称」という手続きを取れば、離婚後も結婚していたときの苗字を名乗り続けることができます。仕事上の都合、子供の学校生活への配慮、職場での認知度――理由はさまざまですが、続称を選ぶ方は少なくありません。
問題は、その「その後」です。
子供が成長し、独立し、家庭の状況が変わったとき、「やっぱり旧姓に戻したい」と思っても、簡単には戻れないのではないか。多くの方がそう不安に感じています。
結論から言えば、家庭裁判所の手続きを経れば、旧姓に戻せる可能性は十分にあります。
今回は、その具体的な条件と、実際の裁判例を踏まえた考え方を解説します。
そもそも旧姓に戻すには「やむを得ない事由」が必要

◆戸籍法107条1項
やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
婚姻時の苗字を続称した方が旧姓に戻すには、戸籍法107条1項に基づき、家庭裁判所の許可を得て氏の変更届を提出する必要があります。手続きの大まかな流れは次の通りです。
- 家庭裁判所へ氏の変更を申し立てる
- 家庭裁判所が許可を出す
- 氏の変更届を役所に提出する
- 戸籍上、氏が変更される

このとき審査の基準となるのが、戸籍法107条1項が定める「やむを得ない事由」です。最高裁判所は、単に「昔の苗字に愛着がある」といった主観的な理由だけでは足りず、氏名の安定性という社会的利益を犠牲にしてでも変更を認めるべき客観的な必要性が求められる、という考え方を示しています(最高裁昭和59年4月27日判決)。
「通姓に対する愛着などのような主観的事情だけでは足りず、呼称秩序の不変性確保という国家的、社会的利益を犠牲にするに値するほどの客観的必要性が存すること」(最高裁昭和59年4月27日判決)
また、債権者から逃れる目的など、動機が不当な場合は当然ながら許可されません。申立ての際には、そうした不当な意図がないことも丁寧に説明する必要があります。
▼「やむを得ない事由」に関しては以下の記事で詳細に解説しています▼
離婚後、子供が大きくなったから旧姓に戻すことはできるか
離婚の際に婚氏を継続した場合に、生来氏(旧姓)へ変更を求める場合について、家庭裁判所及び高等裁判所は、「やむを得ない事情」について緩和的に解釈する傾向があります。
以下、その旨を述べている決定をご紹介させて頂きます。
〇名古屋高等裁判所平成7年1月31日
「氏の変更について,戸籍法107条1項所定の「やむを得ない事由」の存否を判断するにあたっては,それが婚姻前の氏への変更である場合には,民法が離婚復氏を原則としていること(民法767条1項)などに鑑み,一般の氏の変更の場合よりもある程度要件を緩和して解釈することが許されるものと解するのが相当である。」
〇大阪高等裁判所平成3年9月4日
「離婚をして婚氏の続称を選択した者が、その後婚前の氏への変更を求める場合には、戸籍法一〇七条所定の「やむを得ない事由」の存在については、これを一般の場合程厳格に解する必要はないというべき」
「やむを得ない事情」について緩和的に解釈されているからといって、婚氏から旧姓への変更が必ず認められているわけではありません。
家庭裁判所審判及び高等裁判所決定を分析すると、婚氏の続称期間の長短や離婚の経緯によって、家庭裁判所の判断の傾向が異なります。
以下では、次の3つのパターンに分けて解説させて頂きます。
- 婚氏の続称期間が短い場合
- 婚氏の続称期間が長い場合
- 離婚→再婚→離婚の場合
パターン①婚氏の続称期間が短い場合
婚氏の続称期間が短い場合、婚氏が社会的に定着しているとは言えないことが多く、緩やかに「やむを得ない事由」が認められる傾向にあります。
あくまでも一般的な傾向です。
各家庭裁判所によっても運用が異なることがあり得ますので申立について不安がある方は一度ご相談ください。
パターン②婚氏の続称期間が長い場合
婚氏の続称期間が長い場合、婚氏が社会に定着していると言え、旧姓に戻す社会的弊害がないか慎重に判断されることになります。
このケースでは、
・①なぜ、婚氏続称をしたのか
・②なぜ、このタイミングで旧姓に戻したいのか
これらの理由について具体的に説明する必要が出てくるかと考えます。
①の理由としては、例えば、子供への学校生活における影響を考えて、婚氏を継続した、というのが考えられます。
②の理由としては、例えば、実家に親と同居する、親と同じお墓に入りたい、子供が大きくなった(結婚した、社会的に自立した)等の理由が考えられます。
これらの理由を具体的な事情を基に、説得的に主張する必要があります。
家庭裁判所審判及び高等裁判所決定の中には、離婚後10年以上経過していた事案において、旧姓への変更を認めた事例もございます。
離婚後から年月が経過している場合であっても、変更の可能性はありますので、一度、弁護士に相談されると良いかと思います。
大阪高等裁判所平成3年9月4日決定離婚以来10年以上経過している事案において、婚氏から旧姓への変更を認めました。
もっとも、この事案では、婚氏を続称したことによって、日常生活における不便・不自由を被っていることが考慮されたと解されます。
パターン③離婚(婚氏A)→再婚(婚氏B)→離婚(婚氏A)→旧姓Cに戻したい
このケースの場合、旧姓でない期間が多く、また、一度目の離婚の際に婚氏を選択しており、旧姓に戻す必要性が高くないと評価される恐れがあります。
①一度目の離婚の際に旧姓に戻さなかった理由
②現在、氏の変更が必要となる理由
を具体的に説明する必要があると考えます。
パターン③離婚(婚氏A)→再婚(婚氏B)→離婚(婚氏A)→旧姓Cに戻したいという事案において、氏の変更を許可した家庭裁判所審判があります。
千葉家庭裁判所は平成11年12月6日の審判で、まさにこのパターンの事案について、実家に実母の親族が健在で親戚付き合いを続けていたこと、将来は旧姓の実家の墓に入りたいと希望していたことなどを踏まえ、氏の変更を許可しています。
最後に
続称という選択も、旧姓に戻すという選択も、どちらも人生の大きな決断です。だからこそ、「今さら手続きが面倒なのでは」「もう認められないのでは」と諦めてしまう前に、一度専門家に事情を整理してもらうことをおすすめします。
離婚から何年経っていても、変更が認められた実例は数多くあります。少しでも旧姓に戻したいというお気持ちがあるなら、まずはお気軽にご相談ください。
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