【弁護士解説】大阪で自筆証書遺言保管制度を利用する方法と注意点

遺言書の方式は任意で選択できますが、なかでも「自筆証書遺言」は紙とペンさえあればすぐに完成させられる手軽な方式です。

一方で、保管中の紛失・滅失・改ざんのリスクが高く、形式面の不備で無効になる可能性もあるのが問題でした。この問題の解決策になるのが、法務局で行う自筆証書保管制度です。

ここでは、自筆証書遺言保管制度の概要、メリット・デメリット、具体的な利用方法を解説します。

また、記事内において、大阪の遺言書保管所をご紹介しています。

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遺言書の種類と自筆証書保管制度

遺言書の方式は3つあり、よく選択されるのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。このうち自筆証書遺言は、誰でも気軽に作成できるメリットがある一方で、保管中のトラブルに巻き込まれるリスクが懸念されています。

自筆証書遺言保管制度の解説に先だって、まずは各遺言方式について基本を押さえましょう。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者本人が全文を自筆で書き、日付と氏名を記載した上で押印するものと定められた方式の遺言です。この方式では、難しい手続が必要ない上、費用もほとんどかからず、保管まで自分で行えば内容はもちろん存在も他人に知らせずに済みます。

もっとも、方式違背(=法律で定められた作成方法に沿わないこと)により無効になる可能性や、保管中の紛失、偽造、変造などには注意しなければなりません。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場で公証人および証人2名の関与のもと作成される遺言書です。

遺言者が公証人に遺言内容を口述し、公証人がそれを筆記して作成します。作成された遺言書は、原本を公証役場で長期間保管するものとし、遺言者については正本・謄本(それぞれ原本の写しにあたるもの)が交付されます。

この方式では、信頼性の高い遺言書が作成され、保管も万全な方法で行われますが、手続が複雑で費用も高くなる(16,000円から)となるのが問題です。

家庭裁判所の検認について

作成した遺言書の将来については、遺言者が亡くなったときに「検認」と呼ばれる手続が必要になります。

開封にあたって家庭裁判所に申し立て、相続人立ち会いのもとで中身を確認し、内容を通知するための制度です。

検認の手続は、公正証書遺言なら不要(そのまま相続手続に移れる)とされますが、それ以外の方式では、原則必要とされています。

検認手続に関しては、以下の記事で解説をしておりますので、もしよろしければ参考にしていただければ幸いです。

【弁護士解説】大阪で遺言書の検認ならLeapal法律事務所【60分間無料法律相談】

自筆証書遺言の保管制度とは

2020年(令和2年)7月10日から開始された自筆証書遺言保管制度は、遺言者本人の申請により、法務局の遺言所保管所が自筆証書遺言を預かる制度です。

制度を利用した預け入れでは、最初に預け入れ対象の遺言書について外形的な確認を行った上で、原本およびその画像データを50年以上に渡って保管してもらえます。

あとで内容を確認したくなったときは、保管証明書の交付やモニターを利用した閲覧で対応し、保管中の原本には容易に触れられない仕組みです。

自筆証書遺言保管制度のメリット

自筆証書遺言保管制度の最大のメリットは、公正証書遺言よりも低い一律の料金で、しかも簡単な手続により、公正証書遺言と同じように公的機関がきちんと預かってくれる点です。預け入れのときに外形的なチェックを受けられるため、方式にそぐわないものとして無効になる心配もありません。

保管制度のさらに便利な点として、家庭裁判所の検認が不要となる点が挙げられます。

加えて、遺言者の希望があれば、死亡時に関係者へ通知してくれるサービス(指定者通知、最大3名まで)も受けられます。遺言者の意思をより確実に実現できる制度といえるでしょう。

■自筆証書遺言保管制度のメリット

  1. 紛失・滅失・改ざんなどのリスクが小さくなる
  2. 外形的な確認(全文や押印の有無等)を受けられる
  3. 遺言者の死亡時、家庭裁判所の検認が不要になる
  4. 死亡時通知や遺言書保管通知を利用できる
  5. 遺言書の保管の申請を低額(一律3,900円)で受けられる

    各手続に必要な手数料は以下のとおりです。

    手続名 手数料額 手続のできる方
    遺言書の保管の申請 申請1件(遺言書1通)につき、3900円 遺言者
    遺言書の閲覧の請求(モニターによる) 1回につき、1400円 遺言者/関係相続人等
    遺言書の閲覧の請求(原本) 1回につき、1700円 遺言者/関係相続人等
    遺言書情報証明書の交付請求 1通につき、1400円 関係相続人等
    遺言書保管事実証明書の交付請求 1通につき、800円 関係相続人等
    申請書等・撤回書等の閲覧の請求 申請書等1件又は撤回書等1件につき、1700円 遺言者/関係相続人等

    (法務省:自筆証書遺言書保管制度

    自筆証書遺言保管制度の利用方法

    それでは、実際に自筆証書遺言保管制度を利用するときには、どんな手順を踏めば良いのでしょうか。

    ポイントは、遺言書を作成するときに「法律で定める方式」と「法務局指定の書式」の両方を守ることと、遺言者本人が手続に対応する必要があることです。

    ここでは、遺言書の作成から法務局での保管申請までの具体的な利用方法を、順を追って説明します。

    遺言書と財産目録を作成する

    自筆証書遺言保管制度では、遺言書の作成に関してはサポートしません。そこで、まずは遺言書と財産目録を自身で作成する必要があります。作成にあたって法律で定める方式は、次の通りです。

    1. 全文の自書※
    2. 氏名・日付の自書
    3. 押印(認印でも実印でも可)

        自書とは、遺言者本人が自分で手書きすることを指します。財産目録については、例外的にワープロで作成しても構わないものとされます。

        上記に加えて、訂正するときは、訂正場所を二重線などで指示して変更した旨を付記し、署名押印をしなければならないとされます。これらの要件を満たせば自筆証書遺言としての方式は守ったことになります。

        なお、保管制度を利用する自筆証書遺言であれば、さらに用紙指定や余白の確保にも注意しなければなりません。法務局では、次のような指定を行っています。

        1. 彩色のないA4サイズの用紙を使用する
        2. 余白を適切に確保する(上5mm・下10mm・右20mm・左は5mm)
        3. 片面のみに記載し、裏面には何も記載しない

          遺言書保管所に予約を入れる

          遺言書の作成が完了したら、次は遺言書保管所への予約です。保管申請できる法務局(遺言書保管所)は、遺言者の住所地、本籍地、または所有する不動産の所在地を管轄する法務局に限られます。

          法務省のウェブサイトで確認できる遺言書保管所一覧(リンク)から該当する保管所を探しましょう。

          予約は電話またはオンラインで行えます。オンライン予約の場合、「法務局手続案内予約サービス」を利用します。予約時には、氏名、生年月日、連絡先などの基本情報が必要です。予約から申請までの期間は通常1週間程度ですが、混雑状況により変動する場合があります。早めの予約を心がけましょう。

          大阪府内の遺言書保管所は、以下のとおりです。

          <大阪府内の遺言書保管所一覧>

          庁名 郵便番号 所在地
          大阪法務局(本局) 〒540-8544 大阪市中央区大手前三丁目1番41号 大手前合同庁舎
          北出張所 〒530-0047 大阪市北区西天満1丁目11番4号 (大阪法務局北分庁舎)
          天王寺出張所 〒543-0074 大阪市天王寺区六万体町1番27号 天王寺合同庁舎
          池田出張所 〒563-8567 池田市満寿美町9番25号
          枚方出張所 〒573-8588 枚方市大垣内町2丁目4番6号
          守口出張所 〒570-0025 守口市竜田通2丁目6番6号
          北大阪支局 〒567-0822 茨木市中村町1番35号
          東大阪支局 〒577-8555 東大阪市高井田元町2丁目8番10号 東大阪法務合同庁舎
          堺支局 〒590-8560 堺市堺区南瓦町2番29号(堺地方合同庁舎内)
          富田林支局 〒584-0036 富田林市甲田一丁目7番2号
          岸和田支局 〒596-0047 岸和田市上野町東24番10号

           

          保管のための必要書類と費用を準備する

          予約が完了したら、保管申請書(リンク)を入手して記入し、ほかに本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)と本籍地の記載がある住民票の写し(発行後3ヶ月以内のもの)を用意しておきます。

          さらに、遺言保管の手数料として3,900円分の収入印紙も購入しておき、申請書の印紙貼付欄に貼っておきます。

           

          保管申請書の記入は、遺言者の基本的な情報のほかに、遺言執行者※の情報の記入欄や、死亡時通知・関係者通知を利用するか否かの希望欄もあります。記入事項をよく確認して、漏れや誤りがないようにしましょう。

           

          ※遺言執行者とは

          ……遺言の内容を実現する(具体的には各財産の名義変更)権利義務を有する者であり、遺言書で指定することができます。自筆証書遺言保管制度では、遺言執行者を死亡時通知の対象とすることで、スムーズに就職し職務にあたってもらえます。

          保管所を来庁して保管申請を進める

          準備が整ったら、予約した日時に遺言書保管所へ来庁します。

          重要なのは、必ず遺言者本人が来庁しなければならない点です。弁護士などの代理人による申請は認められません。

          窓口では、まず本人確認が行われます。

          その後、提出書類の確認、遺言書の形式チェック、手数料の納付などの手続が進められます。問題がなければ、遺言書は法務局で保管され、代わりに保管証が交付されます。

          保管証には遺言書の保管番号が記載されており、後日遺言書の閲覧や撤回をする際に必要となります。また、相続人が遺言書の存在を確認する際にも役立ちます。紛失しても再発行はできないので、大切に保管しましょう。この保管証の交付をもって、自筆証書遺言の保管手続は完了します。

          保管中の自筆証書遺言に関する各種手続

          自筆証書遺言保管制度を利用した後も、状況に応じてさまざまな手続が必要となる場合があります。

          手続には氏名・住所変更、閲覧請求、証明書交付請求などがあり、いずれも申請書は法務局のウェブサイト(リンク)で入手可能です。

          遺言書の閲覧手続

          遺言書の閲覧は、遺言者本人のみが行えます。閲覧を希望する場合は、事前に法務局へ予約が必要です。

          閲覧方法には、原本を直接閲覧する方法と、画像データをモニターで閲覧する方法があります。原本閲覧は保管している法務局でのみ可能ですが、モニター閲覧は全国の法務局で可能です。

           

          閲覧手続を行う際は、本人確認書類(顔写真付き)と保管証が必要です。

          手数料は、原本閲覧が1,700円、モニター閲覧が1,400円で、収入印紙で納付します。閲覧によって内容を確認し、必要に応じて変更や撤回の手続を検討することができます。

          氏名・住所の変更手続

          遺言者の氏名や住所が変更になった場合、変更届出が必要です。

          この手続は全国どこの法務局でも可能で、郵送での申請も受け付けています。

           

          氏名・住所の変更手続を行うときの必要書類は、変更届出書、本人確認書類の写し、変更を証明する書類(戸籍謄本や住民票の写しなど)で、手数料はかかりません。

          変更を怠ると、遺言者の死亡時に相続人への通知が適切に行われない可能性があるため、速やかに手続することが重要です。

          遺言書保管の撤回手続

          遺言書の保管撤回は、遺言者本人のみが来庁の上で行えます。

          撤回の主な目的は、撤回後に遺言の内容修正もしくは新しい遺言書の作成を行うことです。保管申請は何度でも行えるため、訂正済みもしくは新しい遺言書を預け入れ直すことも可能です。

           

          遺言書保管の撤回を行うときの必要書類は、撤回申請書、本人確認書類、保管証で、手数料はかかりません。

          撤回後は遺言書が返却されますが、返却された遺言書は通常の自筆証書遺言として効力を持つため、内容の変更などはなるべく速やかに行う必要があります。

          遺言者死亡時に相続人が行う手続

          遺言者が死亡した場合、相続人は「遺言書の存在とその内容」を証明するものが必要です。

          遺言の存在については、遺言書保管事実証明書の交付を請求できます。のちに遺言書情報証明書(遺言の内容が記載された証明書)の交付を請求すれば、内容も確認できます。これらの証明書を取得することで、遺言の内容に基づいた財産の名義変更を行うことが可能です。

           

          なお、遺言書保管事実証明書および遺言書情報証明書は、全国どこの法務局でも交付請求を受け付けています。

          必要書類は、請求書、本人確認書類、相続人であることを証明する戸籍謄本等です。手数料は、保管事実証明書が1通800円、遺言書情報証明書が1通1,400円となります。

          自筆証書遺言保管制度利用時のデメリット・注意点

          自筆証書遺言保管制度は、多くのメリットがある一方で、いくつか注意点が存在します。

          制度を利用する際には、これらの点を十分に理解し、自身の状況に照らし合わせて判断することが重要です。

          1. 機密性がやや落ちる
          2. 保管手続は本人自ら行う必要がある
          3. 遺言する内容はチェックしてもらえない

          一つずつ解説させて頂きます。

          機密性がやや落ちる

          自筆証書遺言保管制度を利用すると、遺言の内容を完全に秘密にすることが難しくなります。

          自分で保管する場合と違って、保管申請時に法務局職員が目を通すことになるためです。

          ただし、法務局職員には守秘義務があり、死亡時の通知も「遺言の存在」のみで内容までは開示されません。それでも、完全な秘密保持を望む場合は、自宅保管など他の方法を検討する必要があるでしょう。

          保管手続は本人自ら行う必要がある

          自筆証書遺言保管制度の利用には、遺言者本人が法務局に出向く必要があります。

          保管申請に申込期限はないため、いつでも余裕があるときに対応できますが、体力や仕事・家事の都合で難しい場合があるかもしれません。入院しているようなケースでは、代替手段として、公正証書遺言の作成も考えられます。公正証書遺言であれば、費用に加算がありますが、公証人が出張して作成することも可能です。

          遺言する内容はチェックしてもらえない

          法務局での保管申請時に行われるチェックは、あくまで形式的なものです。

          具体的には、全文自筆であるか、日付や署名があるか、押印されているかなどの外形的な確認にとどまります。

          遺言の内容そのものの妥当性や法的な有効性については保証してもらえません

           

          以上のような理由から、相続人間でトラブルを引き起こしかねない遺言の内容や、無効となる可能性のある遺言であっても、そのまま保管されてしまいます。

          こうした問題を避けるためには、遺言者自身が内容の適切性を判断する必要がありますが、知識がないと難しい対応になると言わざるを得ないでしょう。

          遺言しようとする内容については、できるだけ弁護士などの専門家の支援を得たいところです。

          まとめ

          自筆証書遺言保管制度は、遺言方式の手軽さ・便利さをそのまま維持し、保管中のリスクおよび形式面で不備になる恐れを軽減してくれるものです。

          費用面でも、財産価額に関わらず3,900円で利用できる手頃さがあります。

          遺言書を作成したものの加齢が進んだときの管理が心配な人や、安心感を求めて公正証書遺言を選択肢に入れている人は、積極的に利用を検討すると良いでしょう。

          問題は、肝心の遺言の内容について、各個人で判断しなければならない点です。保管制度でも公正証書遺言でも存在する課題であり、不安があるときは、相続法や実例に詳しい専門家の支援を得なくてはなりません。遺言書作成の目的をより確実に達成できるよう、早々に弁護士などに相談しておくのが無難です。

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          弁護士 山村真吾

          弁護士 山村真吾

          ・ベンチャー精神を基に何事にもフレキシブルに創造性高く挑戦し、個々の依頼者のニーズを深く理解し、最適な解決策を共に模索します。|IT、インターネットビジネス、コンテンツビジネスに精通しており、各種消費者関連法、広告・キャンペーン等のマーケティング販促法務や新規サービスのリーガルチェックを得意とします。|一部上場企業から小規模事業まで幅広い業態から、日常的に契約書レビューや、職場トラブルや定時株主総会の運営サポート等の法的問題に対応した経験から、ビジネスと法律の橋渡し役として、法的アドバイスを行います。|その他マンション管理案件、氏の変更、離婚、遺言相続、交通事故等の一般民事案件にも精力的に取り組んでいます。

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