公正証書遺言は、任意で選択できる遺言方式のひとつで、信頼性が高くトラブル防止にも繋がる点で選ばれています。
一方で、作成は公証役場で行う必要があり、その際には証人2名の手配が必要になるなど、難しいと感じる面があるのも確かです。ここでは、公正証書遺言の利点や作成手順について、弁護士が解説します。
目次
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、3つある遺言方式のうちの1つで、本人の口授(=口頭で遺言内容を告げること)により公証人が作成する方式です。ここで言う「公証人」は、弁護士や裁判官などの経験者から法務大臣に任命され、公証役場で事務を執り行う者です。さらに、公証人は、一般的に、法令違反性確認義務及び法令違反に当たる証書作成防止義務を負っているため、こうした立場の者が作成する文書は、内容の信頼性が高いとされています。
なお、作成された公正証書遺言は、正本と謄本(それぞれ原本の写しにあたるもの)が交付されたのち、公証役場で50年以上に渡って保管されます。遺言者(=遺言書の作成者)が亡くなったときには、正本および謄本をもとに遺産の名義変更を進められます。
参考:日本公証人連合会FAQ集
▼弁護士山村真吾のインタビュー記事▼
公正証書遺言を作成するメリット
公正証書遺言を作成するメリットは、信頼性や法的効力の確実さだけではなく、遺言書の管理にかかるリスクを低くした上で、相続人の負担を減らす効果もあることです。具体的には、次のようなことが言えます。
保管中のリスクを低減できる
公正証書遺言の最大の利点は、保管中のリスクが極めて低いことです。遺言書の原本は公証役場で厳重に保管されるため、紛失のリスクはほぼありません。また、中立かつ信頼できる公的機関での保管により、改ざんや偽造の可能性も極めて低くなります。滅失についても、大規模な災害によって役場まで甚大な被害を受けるなどといったことがない限り、考えにくいと言えます。
遺言書の存在を確認しやすい
保管されている公正証書遺言は、全国の公証役場に連携された検索システムを使い、作成情報(作成公証役場名・公証人名・遺言者名・作成年月日など)を検索できます。検索できるのは、生前のうちは遺言者のみ・死後は関係者(相続人など)のみと限定されているため、セキュリティ面に問題はありません。このような仕組みがあることで、自主的に保管する他の遺言方式に比べ、遺言が発見されないまま遺産分割が進むリスクを減らせます。
相続手続がスムーズになる
遺言方式には、ほかに「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」がありますが、いずれも遺言者が死亡したときに家庭裁判所で検認を申し立てなくてはなりません。遺言書の原状を保全するためや遺言の存在を相続人に知らせ、内容を共有するための手続です。他方「公正証書遺言」は、公証人が作成に関与し、遺言書は公証役場に保管されるため、偽造・変造の危険が少ないため、検認は不要とされます。このように、遺言者の死後の手続をひとつ省略できることで、相続手続がスムーズになります。
遺言書の検認手続に関しては、以下の記事をご参照ください。
公正証書遺言作成の手順
遺言内容の確実な実現に向けて高い利便性をもつ公正証書遺言ですが、その作成方法は複雑です。ポイントは、証人を準備しなければならない点と、公証役場には必ず本人が出向く必要がある点です。順に解説すると、次のようになります。
- 遺言書案を作成する
- 必要書類を集める
- 証人2名を手配する
- 公証役場に予約を入れる
- 公正証書遺言案の擦り合わせ
- 公正証書遺言の作成
必ずしもこの順番で進める必要はありませんが、上記の手順に沿って進めるとスムーズかと思います。
以下、それぞれの手順について簡単に補足説明をさせて頂きます。
遺言書案を作成する
まずは、遺言書案を作成しましょう。
遺言書案を作成する際には、なぜ、遺言書を作成したいのか(作成の動機、目的)、遺言の内容(誰に何をどうしたいのか)、相続人に伝えておきたいことはあるのか、等をよく検討し作成しましょう。
必要書類を集める
遺言作成の当日は、本人確認書類のほかに、相続関係を証明するものそのほかの書類を必要とします。個別の状況により追加の提出を求められることもありますが、一般的な必要書類は下記の通りです。
- 遺言者の本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
- 遺言者の印鑑登録証明書
- 遺言者と相続人の戸籍謄本
- 不動産の登記事項証明書(不動産がある場合)
- 預金通帳のコピーなど財産状況がわかるもの
証人2名を手配する
公正証書遺言の作成では、本人の口授だけでなく、証人になってくれる人を2名手配しておく必要があります。証人については何らかの職業資格を求められるわけではないものの、次の条件に当てはまらない人を候補に選ばなければなりません。
■公正証書作成において証人になれない人(民法第974条)
- 未成年者
- 推定相続人および受遺者(遺贈を受ける人)
- 推定相続人・受遺者の配偶者および直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
証人に心当たりがない場合は、遺言作成について弁護士に相談する際、適切な人物を手配してもらうことも可能です。
弁護士などに依頼せずに、遺言者ご本人で公正証書遺言を作成する場合であっても、公証役場に依頼すれば証人を手配してもらうことができます。その場合には、別途、証人に対する謝礼の支払いが必要となります。
公証役場に予約を入れる
公正証書遺言の作成にはいくつもの手順と時間を必要とするため、事前の予約が必要です。最寄りの公証役場がどこか調べた上で、電話で必要事項(遺言書を作成したい旨・証人の有無・希望日時)を伝えましょう。
当日の流れは公証役場によって異なることもあるため、必要書類そのほかの事項についても聞き取っておくとベストです。
公正証書遺言案の擦り合わせ
公証人との間で、遺言書案をすり合わせをすることになります。メールであったり、電話でやり取りを行います。
この際に、実現したい遺言の内容を丁寧に公証人に伝えるようにしましょう。
作成当日の流れ
作成当日は、まず遺言者と証人の本人確認が行われます。その後、公証人との面談で遺言内容の最終確認と遺言能力の確認が行われます。公証人が遺言書を読み上げ、内容を確認した後、遺言者、証人、公証人の順で署名・押印します。
ここで注意したいのは、必ず遺言者本人が当日の対応を行う点です。弁護士や親族などの代理人では、遺言書の作成に必要な口授が行えません。公証役場に行くことができない特別な事情(入院中、施設入居中など)がある場合には、別途費用で出張してもらうことも可能です。
手続き完了後、手数料を支払い、正本と謄本を受け取ります。
正本は遺言者が保管し、謄本は必要に応じて相続人に渡すことができます。これらの書類は安全な場所に保管し、その所在を信頼できる人に知らせておきましょう。
遺言執行者を指定しているのであれば、その方に正本又は謄本を渡しておくと良いでしょう。
公正証書遺言作成にかかる費用
公正証書遺言の作成にかかる費用は、法律で定められている公証人手数料のほか、正本・謄本の交付手数料、作成当日の必要書類を用意するための費用(交付手数料)などに分かれます。もっとも大きい公証人手数料は、最低でも16,000円からとなっており、費用をきちんと試算しておく必要があるでしょう。
公証人手数料
公正証書遺言作成のための公証人手数料は、遺産の総額(財産価額)に応じて定められています。最低でもかかる費用は5千円で、財産価額1億円までは11,000円の遺言加算がある点を加味すると、手数料は次の表のようになります。
財産価額 | 手数料(+遺言加算) |
100万円以下 | 16000円 |
100万円超200万円以下 | 18000円 |
200万円超500万円以下 | 22000円 |
500万円超1000万円以下 | 28000円 |
1000万円超3000万円以下 | 34000円 |
3000万円超5000万円以下 | 40000円 |
5000万円超1億円以下 | 54000円 |
1億円超3億円以下 | 43000円+超過額5000万円ごと13000円 |
3億円超10億円以下 | 95000円+超過額5000万円ごと11000円 |
10億円超 | 240000円+超過額5000万円ごと8000円 |
引用:日本公証人連合会FAQ
正本・謄本の交付手数料
公正証書遺言の正本・謄本の交付手数料は、1枚につき250円です。
ほかに、謄本の送達および送達証明を希望する場合は、送達手数料1400円・送達証明250円に加え、送料も必要です。
必要書類の交付手数料
公正証書遺言作成にあたって必要となる戸籍謄本や住民票の写しは、それぞれ交付手数料がかかります。
戸籍謄本は相続関係の証明に必要な数を揃える必要があるため、合計で数千円程度かかる場合もあるでしょう。
各書類の1通あたりの一般的な交付手数料は以下の通りです。
- 戸籍謄本:450円~750円/通
- 住民票の写し:200円~300円/通
- 印鑑登録証明書:200円~300円/通
専門家報酬
弁護士や司法書士などの専門家に相談・依頼する場合、別途報酬が必要です。
通常8万円から20万円程度の費用が一般的ですが、受ける支援の内容によって変わります。
■弁護士による公正証書遺言作成支援の内容
- 遺言内容の相談・提案
- 遺言書原案の作成(口授のため必要)
- 証人の手配
- 遺言執行者への就職※
- 必要書類の準備
※遺言執行者とは:被相続人および相続人に代わって遺言の内容を実現するため、必要な権利義務が与えられた人物を指します。
弁護士に依頼する場合には、これらのすべてを一挙に依頼することが可能です。
大阪の公証役場一覧
大阪府下で遺言書を作成できる公証役場は11か所あります。作成はどこで行っても構いませんが、当日行きやすい場所を選ぶと良いでしょう。
※ここに記載する情報は、2024年8月現在のものです。最新の情報は公証役場一覧(リンク)でご確認下さい。
大阪市北部
大阪市北部の公証役場は5か所あり、詳細は次の通りです。
■梅田公証役場
大阪市北区芝田2-7-18 LUCID SQUARE UMEDA 3階
06-6376-4335
■平野町公証役場
大阪市中央区平野町2-1-2 沢の鶴ビル3階
06-6231-8587
■本町公証役場
大阪市中央区安土町3-4-10 京阪神安土町ビル3階
06-6271-6265
■江戸堀公証役場
大阪市西区江戸堀1-10-8 パシフィックマークス肥後橋5階
06-6443-9489
大阪市南部
大阪市南部の公証役場は2か所あり、詳細は次の通りです。
■難波公証役場
大阪市浪速区難波中1-10-4 南海SK難波ビル6階
06-6643-9304
■上六公証役場
大阪市天王寺区東高津町11-9 サムティ上本町ビル4階
06-6763-3648
大阪東部
大阪東部の公証役場は2か所あり、詳細は次の通りです。
■枚方公証役場
枚方市大垣内町2-16-12 サクセスビル5階
072-841-2325
■高槻公証役場
高槻市芥川町1-14-27 MIDORIビル2階西
072-681-8500
大阪西部
大阪西部の公証役場は2か所あり、詳細は次の通りです。
■堺合同公証役場
堺市堺区北瓦町2-4-18 現代堺東駅前ビル4階
072-233-1412
■岸和田公証役場
岸和田市宮本町2-29 ライフエイトビル3階
072-422-3295
大阪南部
大阪南部の公証役場は1か所となり、詳細は次の通りです。
■東大阪公証役場
東大阪市永和2-1-1 東大阪商工会議所3階
06-6725-3882
公正証書遺言作成は弁護士に相談を
遺言の内容を実現に向けてしっかりと保全したい人や、書いたものに信頼性を求める人は、公正証書遺言と呼ばれる形式で作成すると良いでしょう。
作成当日には公証人および証人が立ち会い、作成したものはその情報の管理も含めて公証役場に任せることができ、全国どこからでも遺言書作成情報を検索することができます。
遺言書作成でよくあるのは、遺言内容の判断に関する不安や困りごとです。効力のある遺言書が作成できても、相続人の意思に著しく反する分割方法であったり、遺言の内容に不備が含まれていたりすると、生前の想いは実現しません。
また、公正証書遺言の問題として、証人の確保も挙げられます。
公正証書遺言の作成は、その内容に関する提案・支援も含めて弁護士にお任せ下さい。
遺言内容の確実な実現に向け、さまざまな角度から支援できます。