いわゆる相続土地国庫帰属法の成立により、一定の要件のもと、相続により取得した土地を手放すことが可能となりました。
地方の実家には住まず、都会で暮らしを続けるミドル、若年層が増加している中、必ずしも実家の土地建物の相続を望まない人たちが増えています。相続した土地の管理は、そう簡単なことではありません。管理が行き届かない土地は、将来的に所有者不明土地化する懸念があります。このような問題に対応するため、相続等により取得した土地を手放して国庫に帰属させる制度「相続土地国庫帰属制度」が新設されました。
本記事では相続土地国庫帰属の要件の解説に加えて、令和6年4月に公表された法務省作成の統計情報を基に、実際の運用状況について解説させて頂きます。
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目次
相続土地国庫帰属法の目的は?
相続土地国庫帰属法の目的は、本法律の1条に記載があります。
この法律は、社会経済情勢の変化に伴い所有者不明土地(相当な努力を払ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない土地をいう。)が増加していることに鑑み、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)(以下「相続等」という。)により土地の所有権又は共有持分を取得した者等がその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を創設し、もって所有者不明土地の発生の抑制を図ることを目的とする。
この目的には、相続土地国庫帰属法のポイントが明記されています。
まず、①本法の制定は、「社会経済情勢の変化に伴い所有者不明土地が増加していることに」対応したものであることが分かります。
次に、②国庫帰属が可能なのは、最低限「土地」である必要があります。つまり、建物を放棄することは出来ません。
さらに、③国庫帰属可能な「土地」の取得原因は「相続又は遺贈」に限定されています。いくら利活用が難しい土地を有していても、「相続又は遺贈」以外の原因で取得した土地であれば、制度対象外となります。
最後に、④相続土地国庫帰属法の目的が、所有者不明土地の発生の抑制にあることが分かります。
すべての土地が対象となるわけではありません
本制度を活用するためには、最低限「土地」である必要があります。
但し、管理コストの国への転嫁(国民への責任転嫁)のおそれ等に鑑みて、次のような土地に該当しないことが要件となっております(相続土地国庫帰属法2条3項)。
- 建物の存する土地
- 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
- 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
- 基準を超える特定有害物質により汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
「建物の存する土地」が除外されている理由
相続土地国庫帰属法では、「建物の損する土地」を制度の対象から外しています。そのため、相続土地国庫帰属法の制度を活用するためには、最低限、更地である必要があります。更地を相続するという例は、そこまで多くないように思いますが、なぜ、「建物の存する土地」を対象外としているのでしょうか。
この点、パブリックコメントでは、「開発可能な土地には、既に建物が存在する場合が多く、建物の所有権放棄ができないものとすると、土地の所有権放棄ができず、制度の実効性が失われる」など、建物の所有権放棄も可能とすべきだとする意見もありました。」
しかし、結論として、建物が建っている土地は、対象外とされました。法制審議会において、下記の通り、その理由について解説があります。
すなわち、主な理由として2点指摘しています。
- 建物管理コストは、土地の管理コストを上回ること
- 利用が見込まれる建物であれば、放棄せずとも、有効活用が図られること
審査手数料の納付が必要となります
本制度を利用するためには、審査手数料の納付が必要となります(相続土地国庫帰属法3条2項)。
法務大臣の承認が必要です。
承認申請を受けた法務大臣は、類型的に、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要すると考えられる土地でない限り、承認しなければならないとされています(同法5条1項各号参照)
「負担金」の納付も必要です
さらに、法務大臣の承認を得た場合には、当該土地の管理に要する標準的な費用を基に算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付する必要があります(相続土地国庫帰属法10条1項)。
承認申請者は、第五条第一項の承認があったときは、同項の承認に係る土地につき、国有地の種目
ごとにその管理に要する十年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭(以下「負担金」という。)を納付しなければならない。
納付が必要な金員は「負担金」と表記されています。これは、あくまでも、国の責任において、土地の管理から解放されるために負担すべき金銭であって、これにより、国が利益を挙げようとする趣旨ではないことを明確にするために、あえて「負担金」と表記されています。
承認を受けた者に金員を納付させる趣旨について、法制審議会では、次のような補足説明がされております。
国庫帰属地の管理及び処分に要する費用を、利用ニーズの低下した土地の利活用による収益でまかなうことは困難であり、不足分は国ひいては現在及び将来の国民の負担によることになるが、本制度を利用して所有者の義務・責任を免れる者に何らの負担もさせないとすることは合理性を欠く。他方で、この負担をあまり大きなものとすると、制度が利用されなくなり、政策目的を達成することができない。
そこで、その負担額は、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を勘案して政令で定めるところにより算出した額と(した。)
国庫に帰属する時期は?
国庫に帰属する時期に関しては、相続土地国庫帰属法第11条に規定されています。
したがって、土地所有権は、承認申請者が、「負担金」を納付した時に、国庫に帰属することになります。
国庫とは?
土地の所有権が国庫に帰属するとはどういう意味なのでしょうか。あらためて基本を押さえておきたいと思います。
財務省のHPでは、「国庫制度」の解説の中で、「国庫」について次のとおり説明しております。
要は、「国」ということになります。国を財産権の主体としてとらえた場合に、「国庫」と呼んでいるということです。
国庫に帰属した後は、どうなるのか?
相続土地国庫帰属法は、国庫に帰属した土地の管理方法についても規定しています。
相続土地国庫帰属制度の利用状況
法務省が令和6年4月16日に相続土地国庫帰属制度の運用状況に関する統計を公開しています。
(以下、法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」より引用抜粋しています)
申請件数
これによれば、令和6年3月31日時点の申請件数は以下のとおりです。
1905件
・地目別
田・畑:721件
宅地 :698件
山林 :280件
その他:206件
国庫帰属件数
上記1905件のうち国庫に帰属した件数は以下のとおりです。
248件
・種目別
宅地 :107件
農用地: 57件
森林 : 6件
その他: 78件・帰属土地が所在する都道府県
北海道、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、
神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、
京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、 香川県、愛媛県、
高知県、福岡県、佐賀県、大分県、長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県
却下件数
6件
(却下の理由)
・4件:現に通路の用に供されている土地(施行令第2条第1項)に該当した
・2件:境界が明らかでない土地(法第2条第3項第5号)に該当した
不承認件数
12件
(不承認の理由)
・3件:土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地(法第5条第1項第2号)に該当した
・1件:民法上の通行権利が現に妨げられている土地(施行令第4条第2項第1号)に該当した
・1件:所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(施行令第4条第2項第2号)に該当した
・2件:国による追加の整備が必要な森林(施行令第4条第3項第3号)に該当した
・5件:国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地(施行令第4条第3項第4号)に該当した
取下げ件数
212件
取下げの原因の例
・自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した
・隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった
・農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった
・審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した
取り下げ件数のうち多くは「審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した」と推測されますが、第三者の関与により土地を手放すことに成功した事例もあるようです。
相続土地国庫帰属制度は利用するべきか
国庫帰属に成功した件数はまだまだ少ないといえますが、審査の途中で、「自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した」や「隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった」等の第三者の関与により土地を手放すことに成功している事例もあるようです。
相続土地国庫帰属制度の利用のためには、まずもって要件を充足する土地でなければなりません。まずは、この点に専門家の意見を聞いてから、利用されるかどうかを検討されると良いかと思います。
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