【弁護士解説】相続分の譲渡とは?相続人が多い場合の手続きと注意点

弁護士 山村 真吾
Leapal法律事務所 代表
当事務所では、案件を大量に処理するのではなく、限られた依頼者一人ひとりに誠実かつ質の高いリーガルサポートを提供することを信条としています。

相続が発生した際、財産をどう分けるかは相続人全員にとって重要な問題です。

もっとも、遺産分割がスムーズに進むとは限りません。特に相続人が多い場合や、遠方に住んでいる相続人がいる場合、全員が顔を合わせて話し合い、合意に至るまでには多くの時間と労力がかかります。

こうした状況において、特定の相続人が自身の相続分を他の相続人や第三者に譲り渡すことで、手続きを簡略化し、紛争を未然に防ぐことができる「相続分の譲渡」という有効な手段があります。

この制度を利用することで、相続人としての権利義務を整理し、円滑な遺産分割を目指すことが可能になります。ただし、手続きを誤るとトラブルや税務リスクにつながることもあります。

本記事では、相続分の譲渡の基本的な仕組みから、具体的な手続き、そして相続人が多い場合に特に注意すべき点について、詳しく解説していきます。

目次

相続分の譲渡とは?基本を理解しよう

相続が開始されると、被相続人(亡くなった人)の財産は、相続財産(遺産)として相続人(法定相続人)に受け継がれます。

相続人が複数人いる場合、各共同相続人にどのくらいの遺産が受け継がれるのかは、それぞれの取り分に応じて異なります。この遺産を受け取れる取り分のことを「相続分」といいます。

この相続分は、遺産全体に対する割合として決められます。たとえば、「相続財産の2分の1」などといった形です。

相続分の譲渡とは、相続分を、他の相続人や第三者に有償または無償で譲り渡すことです。個々の財産(不動産や預金など)を特定の人に譲渡するのではなく、遺産全体に対する権利の「割合」を移転する行為です。

相続分の譲渡を正面から認める法律の規定はないものの、民法905条が相続分の譲渡がされたことを前提として取戻権等の規定を置いていることから、法律上も有効なものとして認められると考えられています。

相続分の譲渡の効果

相続分が譲渡されると、譲渡人の相続分が譲受人に移転します。

あくまで相続分の移転ですので、個々の財産の権利を移転させるためには、名義変更や移転登記などの手続きが必要です。

また、相続人が複数人いる場合には、個々の財産の帰属を確定するために遺産分割を行う必要があります。

遺産分割をする場合、譲渡人は遺産分割から離脱し、その後の手続きに参加する権利を失います。一方、譲受人は、譲り受けた相続分をもって遺産分割に参加することになります。

これにより、遺産分割の手続きを簡略化し、相続人間の関係を整理する効果が期待できます。

相続分放棄との違い

相続分の譲渡は、自身の相続分を他人に移転する行為です。プラスの財産(資産)だけでなく、被相続人の借金などのマイナスの財産(負債)も一緒に引き継がれます。

もっとも、譲り渡すのはあくまで相続分です。相続人としての地位自体を失うわけではありません。

これに対し、相続放棄とは、相続をしない旨の意思表示です。家庭裁判所に相続放棄を申述する必要があります。

相続放棄の申述が受理されると、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がず、相続開始の時から相続人ではなかったものとみなされます。

相続分の譲渡のメリットとデメリット

相続分の譲渡は、適切に利用すれば、特定の相続人に相続分が集中することで遺産相続紛争を軽減するなどのメリットがありますが、相続人の関係が悪化することや相続債権者との関係におけるデメリットも存在します。

以下では、相続分の譲渡のメリットとデメリットについて説明します。

譲渡人のメリットとデメリット

相続分の譲渡をすると、譲渡人は、遺産分割から離脱でき、親族間の紛争に巻き込まれずに済むメリットがあります。

また、紛争から早期に離脱して、譲渡の対価を得ることにより、ある意味で、個々の財産の換価処分や遺産分割するよりも早く遺産を現金化できるというメリットもあります。

もっとも、相続分の譲渡をして、マイナスの財産(負債)を譲受人に移転させたとしても、それは当事者間での話です。相続債権者(被相続人の債権者)には関係ありません。

そのため、相続分の譲渡をしたにもかかわらず、相続債権者から支払いを請求される可能性があります。

また、相続分の譲渡は、早期に遺産を現金化できるものの、実際に遺産分割や財産換価をしているわけではないので、譲渡の対価が遺産の価値に見合ったものとは限らないというデメリットもあります。

譲受人のメリット・デメリット

譲受人が相続人であれば、相続分が増加することがメリットです。また、第三者も、実際の遺産の価格よりも低額で譲り受けられれば、遺産を取得したときに多くの利益を得られるメリットがあります。

ただし、譲受人は、プラス財産だけでなくマイナスの財産も譲り受けることになるので、事前に十分に負債を確認しておかないと、思わぬ負担を受けることになりかねません。

また、譲受人が相続人の場合、他の相続人との間で不公平感が生じ、関係が悪化する可能性があります。譲受人が第三者の場合には、遺産分割紛争に巻き込まれるデメリットもあります。

他の相続人のメリット・デメリット

他の相続人にも、特定の相続人に相続分が譲渡されたことにより、相続分が集中して、遺産分割が円滑に進む可能性があるというメリットがあります。

ただし、譲受人が相続人であれば不公平感を感じるでしょうし、第三者であれば親族間の話し合いに第三者が介入することで、かえって話し合いが混乱するなどのデメリットが生じることはあり得ます。

相続分譲渡の基本的な手続きの流れ

相続分の譲渡には、特に裁判手続きなどは必要とされていません。当事者間の合意のみで成立します。

しかし、後に「言った」「言わない」で紛争が蒸し返されないよう、しっかりと契約書などの書面を作成しておくことが大切です。

以下では、相続分譲渡の基本的な手続きの流れについて説明します。

相続分譲渡契約書の作成

相続分を譲渡する場合には、譲渡契約書を作成しておきましょう。書面の名称は、相続分譲渡契約書などどのような名称でもかまいません。

ただし、契約書には、最低限、以下の内容を明記する必要があります。

  • 当事者(譲渡人・譲受人)の氏名・住所など
  • 譲渡する相続分の特定(被相続人・相続開始日など)
  • 譲渡する相続分の割合
  • 譲渡の対価(無償の場合は「無償」と明記)
  • 個々の財産移転の手続きに関する取り決め
  • 契約締結日

また、法的に決められた添付書類があるわけではありませんが、契約書には以下の書類を添付のが、一般的です。

  • 被相続人の除籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本・相続関係説明図
  • 当事者の印鑑証明書

相続分譲渡契約の締結

相続分譲渡契約書を作成したら、譲渡人と譲受人との間で相続分譲渡契約を締結します。

より確実を期すのであれば、公証役場に行き、公証人に公正証書として譲渡契約書を作成してもらう方法もあります。

公正証書にすると、契約の存在と内容が公的に証明され、後の紛争を防ぐ効果があります。

個々の財産の移転手続き

前記のとおり、相続分の譲渡をしただけで、自動的に個々の財産も譲受人に移転されるわけではありません。

相続分譲渡契約をした後に、それぞれの財産の名義変更や登記移転などの手続を行う必要があります。

相続人が多い場合の手続きと注意点

基本的な手続きの流れは、前記のとおりです。もっとも、相続人が複数人いる場合には、前記手続きのほかに、譲受人は、他の相続人との間で遺産分割を行う必要があります。

相続人が多い場合には、それぞれの意見の調整などが難しくなることもあるため、以下の点に注意しなければなりません。

他の相続人への通知・承諾の重要性

相続分の譲渡は、譲渡人の自由です。そのため、他の相続人の同意は、法律上必要とされていません。

しかし、通知を怠ると、譲渡した後に「知らされていなかった」と異議を唱えられ、トラブルの原因になります。

特に、相続人が多い場合は、遺産分割での話がまとまりにくいため、譲渡前に通知や承諾を取っておく方が安全です。

第三者への相続分譲渡の注意点

相続分の譲渡は、他の相続人だけでなく、第三者に対しても行うことができます。

相続人間で相続分の譲渡を行う場合には、遺産分割の参加者を減らすことができ、それによって、相続人が多い場合でも手続きを円滑に進めるようになるというメリットがあります。

しかし、第三者に譲渡する場合には、遺産分割に親族でない他人が介入することになります。そのため、かえった他の相続人との共有状態が複雑になりやすく、財産処理が難しくなるケースがあります。

第三者に譲渡する場合には、事前に他の相続人との間で財産の管理や処理の方向性について承諾をとっておくなどの準備が必要です。

まとめ:相続分の譲渡を安全に行うために

相続分の譲渡は、相続人全員の合意を必要とせず、簡潔に手続きを進められるため、相続人が多い場合や、遺産分割協議が難航している場合に有効な手段です。

しかし、相続債務も引き継ぐリスクや、税金の問題など、注意すべき点が多いため、安易に行うべきではありません。

「自分のケースでは相続分の譲渡が適切かどうか分からない」「相続分を譲渡したいが契約書の作成が不安」などの場合には、事前に弁護士に相談し、適切なアドバイスやサポートを得ることが大切です。

この記事を書いた人

・ベンチャー精神を基に何事にもフレキシブルに創造性高く挑戦し、個々の依頼者のニーズを深く理解し、最適な解決策を共に模索します。|IT、インターネットビジネス、コンテンツビジネスに精通しており、各種消費者関連法、広告・キャンペーン等のマーケティング販促法務や新規サービスのリーガルチェックを得意とします。|一部上場企業から小規模事業まで幅広い業態から、日常的に契約書レビューや、職場トラブルや定時株主総会の運営サポート等の法的問題に対応した経験から、ビジネスと法律の橋渡し役として、法的アドバイスを行います。|その他マンション管理案件、氏の変更、離婚、遺言相続、交通事故等の一般民事案件にも精力的に取り組んでいます。

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