遺言執行と死後事務委任の違いは?

弁護士 山村 真吾
Leapal法律事務所 代表
当事務所では、案件を大量に処理するのではなく、限られた依頼者一人ひとりに誠実かつ質の高いリーガルサポートを提供することを信条としています。

ご自身が亡くなった後のための備えとして「遺言」はよく知られています。しかし、実は、遺言だけではカバーできない死後の手続きは少なくありません。

例えば、葬儀の手配、病院への支払い、賃貸契約の解約、遺品整理、ペットの世話など、遺産の配分以外の個人的な事務は、遺言書に書いても法的な効力がありません。

そこで、遺言でカバーできない死後の手続き・事務処理についてもご本人の意思を反映させ、残された家族の負担を減らすために「死後事務委任契約」があります。

遺言の執行と死後事務の委任は、ご本人の死後の手続きに関わるものですが、その役割や範囲には明確な違いがあります。

本記事では、遺言執行と死後事務委任の違いについて、実務上のポイントも踏まえながら分かりやすく解説します。

遺言や死後事務委任契約をお考えの方がいらっしゃいましたら、ぜひご一読ください。

目次

遺言執行とは:遺言の内容を実現する

遺言執行とは、遺言の内容を法律に従って実現することです。遺言執行を行う人のことを遺言執行者と言います。

法律で定める方式に従って遺言を作成しておけば、誰にどれだけの遺産を相続させるのかなど遺産相続の手続きについて、遺産を遺すご本人(遺言者)の意思を反映させることができます。

もっとも、ご本人は亡くなっていますから、ご本人に代わって誰かが遺言を実現する行為をしなければなりません。それが遺言執行者です。

遺言執行者は、その遺言者の意思を実現するため、相続財産の調査から名義変更、遺贈の実行など、法的な権限を持って遺産相続の手続きを進めていきます。

遺言執行者は、遺言で指定しておくことも可能です。遺言で指定がない場合には、相続開始後に、相続人などが家庭裁判所に申立てをして選任してもらうことになります。

遺言執行者ができること

遺言書には、何を書いても法的な効果が発生するわけではありません。法的な効果が発生するのは、法律で決められた事項(遺言事項)に限られます。

遺言事項は、一定の身分行為(死後認知など)も含まれますが、基本的には、遺産相続に関わる事項です。

そして、遺言執行者の権限は、遺言に定められた遺言事項に関わるものに限定されます。

例えば、遺言執行者ができることとしては、以下のようなものがあります。

  • 相続財産の調査・目録作成:預貯金、不動産、株式などの財産を調査して、リスト化します。
  • 遺言内容の実現:遺産分割の実行、特定の人への遺贈、寄付などを指示通りに行います。預貯金口座の解約・払戻し、不動産の名義変更(相続登記)なども含まれます。
  • 相続財産の管理:相続手続きが完了するまで、財産を適切に管理します。

遺言執行者ができないこと

上記のとおり、遺言執行者の権限は、遺言に定められた遺言事項に関わることに限定されます。

したがって、遺産相続に関わらない死後の手続き・事務処理をすることはできません。

例えば、葬儀・火葬・納骨の手配、医療・介護サービスの解約や精算、公共サービスの解約や精算、遺品整理などは、遺言執行者の権限範囲外です。

これらは遺言事項ではありませんから、遺言書に書いても法的拘束力はありません。そして、遺言事項でない以上、遺言執行者には権限がないことになります。

死後事務委任とは:死後の事務処理を依頼する

遺言を作成しておけば、遺産相続に関する手続にご本人の意思を反映できます。しかし、遺産相続以外の死後の手続きを遺言で決めておくことはできません。

遺産相続以外の死後の手続きにご本人の意思を反映させるためには、死後事務委任契約を締結しておく必要があります。

死後事務委任とは、自分が亡くなった後の死後の手続きや事務処理をあらかじめ信頼できる人に受任者として行ってもらうよう依頼しておくことです。

死後事務委任をするためには、ご本人と受任者となってもらう人との間で、死後事務委任契約を締結しておく必要があります。

死後事務委任契約を締結しておくことにより、遺言でカバーできない死後の手続きにも、ご本人の意思を反映できます。

死後事務委任契約は、身寄りのない人やご家族への負担を軽減したいと考えている人には、特に有効です。

死後事務受任者ができること

死後事務受任者を誰にするか、どのような手続きや事務処理を依頼するかは、死後事務委任契約で決めておくことができます。

ただし、遺産相続に関わることは、遺言によって決めておくべきことですから、死後事務受任者ができるのは、遺産相続以外の死後の手続きや事務ということになります。

例えば、以下のような死後の手続きや事務処理を委任することができます。

  • 葬儀・埋葬・供養に関する事務:葬儀の形式、規模、葬儀・火葬業者の手配、納骨先の手配、お墓の管理料支払いなど
  • 医療・介護に関する事務:医療契約・介護契約の解約、医療費・介護費の精算、死亡診断書の取得など
  • 行政機関への届け出:死亡届の提出、住民票の抹消、健康保険・年金などの資格喪失手続きなど
  • 生活関連契約に関する事務:電気、ガス、水道、電話、インターネット、新聞、クレジットカードなどの解約や精算
  • 住居に関する事務:賃貸借契約の解約、賃貸物件の原状回復や明け渡し、家賃の精算など
  • 遺品整理、デジタルデータの整理・消去など
  • ペットの世話に関する事務: ペットの引き取り先決定、手配、引き渡しまでの世話など

死後事務受任者ができないこと

前記のとおり、死後事務受任者は、相続財産の分配や管理、遺言書の検認・遺言の執行など、遺言執行者の職務に属する財産に関する事務は行えません。

遺産相続に関わることは、遺言で決めておく必要があります。

遺言と死後事務委任を組み合わせるのが万全の備え

遺言執行は遺産相続の手続きを扱うものであり、死後事務委任は遺産相続以外の死後の手続き・事務処理を扱うものです。

両者は異なる役割を持ち、互いに補完し合う関係にあります。どちらか一方だけでは、死後の備えとしては不十分になる可能性があります。

したがって、遺言執行と死後事務委任を組み合わせるのが、死後の手続きに対する万全の備えとなります。

例えば、遺言執行者を指定していても、火葬や住居の解約など、生活まわりの事務処理はカバーされません。また、身寄りがいない場合には、誰もそれらを代行できなくなるおそれがあります。

そのため、遺言を作成し、その遺言で遺言執行者を指定しておき、さらに死後事務委任契約を締結しておかなければ、遺産相続も含めた死後のすべての手続きや事務処理にご本人の意思を反映させられる体制が作れないのです。

さらに万全を期す方法:任意後見契約も併用する

遺言書の作成・遺言執行者の指定と死後事務委任契約を準備しておけば、死後の手続きに対する備えとしては万全です。

もっとも、生前においても、認知症などにより判断能力が低下してしまい、財産管理などが難しくなるという状況になる可能性はあります。

そのような場合にも備えておいた方が、死後のことも含めた「終活」としてより万全になるでしょう。

具体的には、判断能力が衰えた後の財産管理や身上監護を信頼できる人(任意後見人)に代理してもらうために、任意後見契約を締結しておくということです。

遺言や死後事務委任契約と任意後見契約を組み合わせることで、人生のどの段階でもご本人の意思を反映させることができます。

任意後見人、遺言執行者、死後事務受任者をすべて同じ人に任せることができれば、より確実でしょう。

まとめ

遺言執行と死後事務委任は、それぞれ異なる役割を持ちますが、どちらもご本人の意思を死後の手続きに反映させることができる重要な手段です。

これらを組み合わせることによって、死後の手続きに対する備えを万全にすることができます。任意後見契約も併用すれば、終活全般において万全の備えになるでしょう。

当事務所では、任意後見契約、死後事務委任契約、遺言のいずれについてもご相談やご依頼を承っています。

老後や死後の手続きで不安を抱えている方がいらっしゃいましたら、まずはご相談ください。

この記事を書いた人

・ベンチャー精神を基に何事にもフレキシブルに創造性高く挑戦し、個々の依頼者のニーズを深く理解し、最適な解決策を共に模索します。|IT、インターネットビジネス、コンテンツビジネスに精通しており、各種消費者関連法、広告・キャンペーン等のマーケティング販促法務や新規サービスのリーガルチェックを得意とします。|一部上場企業から小規模事業まで幅広い業態から、日常的に契約書レビューや、職場トラブルや定時株主総会の運営サポート等の法的問題に対応した経験から、ビジネスと法律の橋渡し役として、法的アドバイスを行います。|その他マンション管理案件、氏の変更、離婚、遺言相続、交通事故等の一般民事案件にも精力的に取り組んでいます。

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