【弁護士解説】個人投資家の遺産分割が揉める理由4選

弁護士 山村 真吾
Leapal法律事務所 代表
法律事務所名のLeapal(リーパル)は、「Legal」(法律)、「Leap」(飛躍)、「pal」(仲間、共に)の造語であり、「法律を通じて、困難を依頼者と共に乗り越えたい」という想いを込めています。弊所は、「中小企業の紛争対応」「遺言相続」「個人賠償法務」の3分野に注力しています。

近年、NISAやiDeCoの普及もあり、上場株式や投資信託を保有したまま亡くなる方が増えています。現金や不動産と異なり、株式や投資信託は「価格が日々変動する「名義変更や売却に一定の手続きが必要」という特殊性を持っています。この特殊性こそが、相続人同士の遺産分割協議を思いのほか難航させる原因になっています。

本稿では、個人投資家の相続でとくにトラブルになりやすい4つのポイント――納税資金の準備、売却のタイミング、分け方、相続後の値動き――について、実務上の注意点を解説します。

目次

1. 納税資金の準備をめぐる対立

相続税は、原則として現金による一括納付が求められます。ところが、遺産の大半が株式や投資信託である場合、相続人の手元には納税に充てられる現金がないというケースが少なくありません。

このとき問題になるのが、「誰が、どの株式を、いつ売却して納税資金を捻出するか」です。

値上がりを見込んで保有を続けたい相続人と、早期に現金化して納税を済ませたい相続人との間で意見が割れやすく、協議が停滞する典型的なパターンです。また、相続税の申告・納付期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内と定められており、悠長に協議している時間的余裕がないことも、対立を先鋭化させる一因となります。

延納や物納といった制度もありますが、物納の要件も厳格であるため、実務上は売却による現金化を前提に準備を進めるケースが大半です。

2. 売却タイミングをめぐる対立

株式や投資信託は、いつ売却するかによって手取り額が大きく変わります。

相場が右肩上がりの局面では「もう少し待てば増える」という思惑から売却を渋る相続人が現れ、逆に下落局面では「これ以上下がる前に売りたい」という相続人と「いずれ戻る」と考える相続人との間で意見が対立します。

さらに厄介なのは、遺産分割協議が未了の間は、原則として相続人全員の同意がなければ売却できないという点です。一人でも売却に反対する相続人がいれば、他の相続人がどれだけ早期売却を望んでも実行できません。

結果として、協議の停滞がそのまま「売り時を逃す」というリスクに直結してしまいます。

3. 分け方をめぐる対立

株式は不動産と異なり、株数という単位で分割できるため、一見「公平に分けやすい財産」に思えます。しかし実際には、次のような分け方の選択肢があり、それぞれに一長一短があるため、相続人間で意見がまとまりにくいのが実情です。

  • 現物分割:株式そのものを株数で按分する方法。銘柄ごとの値動きの違いにより、結果的に取得額に差が生じることがあります。
  • 換価分割:いったん売却して現金化してから分ける方法。公平性は高い一方、売却タイミングの選定という別の対立を生みます。
  • 代償分割:一部の相続人が株式を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法。評価額の算定基準(相続開始時か、分割時か)によって代償金の金額が変わり、こちらも争いの種になりがちです。

とくに、複数の銘柄を保有していた場合、値動きの良い銘柄・悪い銘柄が混在するため、「誰がどの銘柄を取得するか」自体が新たな火種となることも珍しくありません。

4. 相続後に生じる値動きのリスク

相続税の評価額は、原則として相続開始時(死亡日)の時価を基準に算定されます。ところが、実際に遺産分割協議が成立し、株式が売却・分配されるのは、それよりも後の時点です。この「評価基準日」と「実際の分割・売却日」との間にタイムラグが生じることで、次のような不公平感が発生します。

  • 評価額算定後に相場が上昇した場合、先に取得した相続人が有利になる
  • 相場が下落した場合、評価額どおりの代償金を支払う相続人にとって負担が重くなる
  • 協議が長期化すればするほど、この価格変動リスクにさらされる期間が長くなる

とくに遺産分割協議が数か月から1年以上に及ぶケースでは、相続開始時と分割時とで評価額が大きく乖離し、「もらった時期によって得をした・損をした」という不満が相続人間の感情的対立に発展することもあります。

まとめ ― 早期の専門家関与が鍵

株式や投資信託を含む遺産分割は、不動産や現金のみの相続に比べて、時間の経過そのものがリスクになるという特徴があります。

納税資金の確保、売却タイミングの調整、公平な分け方の選定、そして評価基準日と実際の分割時期のズレ――これらはいずれも、協議が長引くほど深刻化する問題です。

そのため、相続開始後はできるだけ早い段階で保有資産を把握し、納税資金の見通しを立てたうえで、分割方針について相続人間の合意形成を急ぐことが重要です。

感情的な対立が生じる前に、弁護士などの専門家を交えて協議を進めることで、円滑な解決につながります。


※本稿は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な事案については、弁護士等の専門家にご相談ください。

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