【弁護士解説】大阪で遺留分侵害額請求をお考えの方へ 【手続きと注意点】

遺産の取り分が少ないと感じたときは、遺留分侵害額請求によって公平な取得が実現する可能性があります。

本人の配偶者・子や孫・父母や祖父母について認められ、生前贈与にも対象が及ぶ請求権です。侵害された金額の考え方や請求方法については、以下の解説で理解できます。

遺留分制度とは

遺留分制度とは、亡くなった人に近しい一定範囲の親族につき、最低限の取り分(=遺留分)を認める制度です。

遺留分の金額は、算定の基礎となる財産に対する一定の割合で計算され、遺留分権者自身で放棄しない限り取得が保障されます。

そして、遺言や生前贈与によって遺留分を下回る額しかもらえなかったときに、その足りない分を遺留分侵害額と呼び、金銭の請求を認めるのが「遺留分侵害額請求権」です。

遺留分が認められる人

遺留分が認められるのは、法定相続人となる、本人の配偶者、子や孫(直系卑属)、父母や祖父母(直系尊属)です。

兄弟姉妹は、第三順位の法定相続人ですが、遺留分は認められていません。

身分関係の例を3つ挙げて遺留分権者の組み合わせを紹介すると、次の通りです。

■配偶者と子がいるケース

……子(※法定相続では第1順位)および配偶者が法定相続人となり、どちらも遺留分権者となります。

■子がおらず、配偶者と父母が存命であるケース

……父母(※法定相続では第2順位)と配偶者が法定相続人となり、どちらも遺留分権者となります。

■子がおらず、配偶者と兄弟姉妹が存命であるケース

……兄弟姉妹(法定相続では第3寿に)と配偶者が法定相続人となりますが、遺留分権者となるのは配偶者のみです。

参考:民法第1042条

上述のとおり、兄弟姉妹には、遺留分が認められていません

そのため、例えば、子供がいない夫婦の場合、お互いが、お互いに相続させる旨の遺言を作成しておけば、両親が法定相続人にならない限り、兄弟姉妹は遺留分を有さないため、遺言の内容がそのまま実現されます。

子供がいない夫婦に、遺言書の作成を勧める一つの理由です。

遺言書の作成方法としてメジャーである自筆証書遺言の作成方法と留意点については、以下の記事で解説しています。

【大阪弁護士】公正証書遺言を作成する手順とメリット

遺留分の請求対象となる財産

遺留分の請求対象となる財産は、亡くなった時点で有する財産だけではありません。

被相続人が相続開始時に有した財産に、一定の範囲の贈与を加え、相続債務の全部を差し引き算定されます(民法1043条1項、1044条)。 

そして、一定の範囲の贈与とは「相続開始前1年間に行った贈与」および「相続開始前10年間の特別受益※にあたる贈与」を指します。

遺留分権利者の遺留分算定を行う際は、相続時に有した財産に上記贈与を合算し、相続債務を差し引き、算定の基礎とします。

※特別受益(民法第903条)とは

……婚姻もしくは養子縁組のため、あるいは生計の資本としての贈与を指します。

遺留分の計算方法

各人の遺留分を計算するときは、2段階で対応します。まずは、遺留分算定の基礎から、一定の割合で「総体的遺留分」を計算しなくてはなりません(下記参照)。

次に、遺留分権者が複数いる場合は、総体的遺留分を法定相続分と同じ割合で按分します。こうして算出された金額が、各人の最低限の取り分である「個別的遺留分」となります(民法第1042条2項)。

■総体的遺留分の割合(民法第1042条1項)

  • 配偶者や子が相続人である場合:2分の1
  • 上記以外:3分の1

ここで、相続開始時の財産が4000万円、遺留分の請求対象となる生前贈与が2000万円、遺留分算定の基礎となる額が計6000万円に及ぶ例を考えてみましょう。この例では、相続人の組み合わせに応じて、以下のように遺留分の額が変わります。

【例1】配偶者および2人の子が遺されたケース

  • 総体的遺留分:3000万円(6000万円 × 2分の1)
  • 配偶者の遺留分:1500万円(法定相続分の割合 = 2分の1)
  • 子1人あたりの遺留分:750万円(法定相続分の割合 = 2分の1 ÷ 2人)

例1において、相続開始10年間に配偶者に2000万円の生前贈与がなされ、さらに、被相続人の財産(評価額4000万円)を全て配偶者に相続させる旨の遺言が残されていた場合、子らは、被相続人の配偶者に対して、それぞれ、750万円の遺留分侵害額請つ求権を有することになります。

【例2】子がおらず、配偶者と父母が存命であるケース

  • 総体的遺留分:3000万円(6000万円 × 2分の1)
  • 配偶者の遺留分:2000万円(法定相続分の割合 = 3分の2)
  • 父母1人あたりの遺留分:500万円(法定相続分の割合=3分の1÷2人)

例2において、相続開始10年前に配偶者に2000万円の生前贈与がなされ、さらに、被相続人の財産(評価額4000万円)を全て配偶者に相続させる旨の遺言が残された場合、父母らは、被相続人の配偶者に対して、それぞれ、500万円の遺留分侵害額請求権を有することになります。

【例3】子がおらず、配偶者と計2人の兄弟姉妹が存命であるケース

  • 総体的遺留分:3000万円(6000万円 × 2分の1)
  • 配偶者の遺留分:3000万円(兄弟姉妹に遺留分がないため、配偶者が総取りする)
  • 兄弟姉妹それぞれの遺留分:なし。兄弟姉妹に遺留分は認められていません。

例3において、配偶者の遺留分を8分の3と計算する方がいるかもしれませんが、誤りです。

確かに、相対的遺留分は2分の1であり、配偶者の法定相続分の割合は、4分の3であり、掛け合わせると8分の3となります。

しかし、兄弟姉妹には、そもそも遺留分が認められていません。遺留分権利者は、配偶者のみのため、相対的遺留分である2分の1が配偶者の遺留分となります。

例3において、相続開始10年前に配偶者に2000万円の生前贈与がなされ、さらに、被相続人の財産(評価額4000万円)を全て配偶者に相続させる旨の遺言が残された場合であっても、兄弟姉妹は、遺留分侵害額請求をすることはできません。

個別的遺留分の計算は「総体的遺留分の割合」と「法定相続分の割合」の両方を把握する必要があるため複雑です。下の表を利用すれば、法定相続人の組み合わせから素早く個別的遺留分を計算できます。

 

法定相続人の

組み合わせ

配偶者 子※ 直系尊属※ 兄弟姉妹
配偶者と子 4分の1 4分の1
配偶者と直系尊属 3分の1 6分の1
配偶者と兄弟姉妹 2分の1 なし
配偶者のみ 2分の1
子のみ 2分の1
直系尊属のみ 3分の1
兄弟姉妹のみ なし

※同順位の相続人が複数いるときの法定相続分は、順位全体の割合を均等に按分します。

遺留分侵害額請求の流れ

相続トラブルの発端は「特定の人が多額の財産を受け取る内容の遺言があった」「特定の相続人に対してのみ多額の生前贈与があった」などといった状況から起こります。

こうした場合には、まず侵害の状況をチェックし、遺留分侵害額請求の金額を検討する必要があるでしょう。

もっとも難航するのは、実際に遺留分を請求する段階です。遺留分侵害額請求の全体の流れを解説すると、以下のようになります。

  1. 遺留分侵害の状況を確認する
  2. 配達証明付き内容証明郵便で請求の意思を伝える
  3. 請求できる額を算定する
  4. 協議による解決を試みる
  5. 遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
  6. 遺留分侵害額請求訴訟を提起する

なお、遺言書発見時の手続である検認手続きに関しては、以下の記事で詳細に解説しています。

【弁護士解説】大阪で遺言書の検認ならLeapal法律事務所【60分間無料法律相談】

遺留分侵害の状況を確認する

最初に行うのは、遺留分に満たない取り分しか得られなかった経緯の確認です。

遺言によリ侵害されたケースでは、そもそも有効な遺言書と言えるかどうかを検討し、有効である場合は侵害の原因となった遺言の文言の確認を行います。

生前贈与により侵害された場合には、贈与の証拠(入出金の明細書など)をできるだけ確保しつつ、状況と金額を整理しましょう。

配達証明付き内容証明郵便で請求の意思を伝える

遺留分侵害の状況が確認できれば、速やかに遺留分を侵害している相続人や受遺者に対し、遺留分侵害額請求をする意思を書面で伝えてください。

この際、請求額が具体的に算定できていれば、その金額を記載すればよいですが、遺留分の具体的な金額が分からない場合でも大丈夫です。

期限内に遺留分侵害額請求の意思を伝えることが大切です。

請求するときのポイントは、配達証明付きの郵便を利用することです。遺留分の請求には一定の期限があり、送付および配達の記録は「期限内に請求したこと」の証明になります。

相手方から「書面は届いていない。書面は届いたが遺留分侵害額請求については何ら記載がなかった」等と言ってくることがあり得ます。こうした場合に備えて、内容証明郵便と呼ばれる方法で書面を送るようにしてください。

以上、整理すると、遺留分侵害額請求をする際は、ケースバイケースの判断があるかと思いますが基本的に配達証明付きの内容証明郵便で送付するようにしてください。

また、遺留分権利者として、相続財産の内容を把握していないのであれば、相手方に対して、遺留分侵害額請求をする意思を伝えるとともに、相続財産目録の開示を求めると良いでしょう。

請求できる額を算定する

遺留分侵害額の算定は非常に複雑です。

相続開始時の財産だけでなく、一定期間内の生前贈与が含まれることは説明したとおりですが、債務の控除も忘れずに行わなければなりません。

このとき、秘密裏に贈与された財産など「見落としている財産」がないかどうかも改めて確認する必要があります。調査の必要性に迫られる可能性が高いため、不安があるときは専門家に相談すると良いでしょう。

なお、遺留分権利者としては、被相続人の相続財産を把握しておらず、遺留分として請求できる金額が不明のことも少なくありません。

そのような場合であっても、遺留分侵害額請求をする意思を、かならず内容証明郵便で伝えてください。

協議による解決を試みる

支払期限付きの請求書面を送っても、すぐに遺留分侵害額が支払われることはほとんどありません。相手方から返答があったときは、協議を希望されるのが一般的です。

協議では「相続財産の範囲は適切か」「そもそも請求した遺留分侵害額は妥当と言えるのか」「どんな支払方法なら対応できるのか」といった点を検討します。

ここでしっかりと話し合い、まずは裁判外での解決を試みます。

遺留分侵害額の請求調停を申し立てる

当事者同士の話し合いで解決しない場合は、仲裁を得ながら話し合いを続ける方法を選べます。家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます

調停では、調停委員が中立的立場で双方の主張を聞き、双方が納得できるポイントを見つけられるようを促します。

非公開で行われるため、プライバシーが守られるのも特徴です。

ここでは法的な主張だけでなく、家族関係や事情も考慮されるため、伝えたい事情を整理してから望むと良いでしょう。

遺留分侵害額請求訴訟を提起する

調停でも解決しない場合は、最終手段として裁判所に訴えるしかありません。

遺留分侵害額請求訴訟を提起し、証拠提出と双方の主張を重ねて、裁判官の判断を仰ぐための手続です。

遺留分侵害額請求は時間を要する手続きになることもありますが、各段階で専門家のアドバイスを受けることで、より確実に権利を主張し、家族関係も考慮した最適な解決策を見出すことができるでしょう。

公平な相続の実現に向けて、慎重かつ適切な対応が求められます。

遺留分侵害額請求の注意点

遺留分侵害額請求は、相続人の権利を守るための重要な法的手続きですが、いくつかの重要な注意点があります。

これらを理解し、適切に対応することで、より円滑かつ確実な請求が可能となります。

請求できる期間(時効)がある

遺留分侵害額請求権には、時効があります。相続開始と遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内です。

また、相続開始時から10年が経過したときは、請求権が消滅します(民法第1048条)

民法1048条
「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。」

証拠収集は丁寧かつ徹底的に行う

遺留分侵害の立証責任は、請求者側にあります。

そのため、遺言書の内容、生前贈与の証拠、相続財産の評価に関する資料、被相続人の債務に関する資料、特別受益に関する証拠などを綿密に収集し、適切に保全しなければなりません。集め方が分からないときは、専門家に相談すると良いでしょう。

感情的にならない

遺留分侵害額請求は、当事者双方のストレスが大きいこともあり、激しい対立や口論に発展しがちです。

ここで注意したいのは、感情的な対応は問題解決を遅らせ、さらには家族関係を元に戻せないほど壊してしまう可能性があることです。

請求では、第一に、客観的な事実と法的根拠に基づいて主張を行うにしましょう。

同時に、相手の立場や事情も考慮し、柔軟な姿勢で交渉に臨むことが重要です。どうしても感情的対立に発展しそうなときは、早々に専門家に介入してもらうと良いでしょう。

大阪で遺留分侵害額請求を行う場合の申立先

遺留分の問題を調停や訴訟で解決したいときは、調停であれば家庭裁判所に対して申立、訴訟であれば地方裁判所(又は簡易裁判所)に対して提訴をする必要があります。

もっとも、どこでもよいわけではなく、管轄の裁判所に対して行う必要があります。

遺留分侵害額の請求調停の場合

原則として「相手方の住所地の家庭裁判所」が申立先となります。

相手方が大阪府内に住所を有するのであれば、①大阪家庭裁判所(本庁)、②大阪家庭裁判所堺支部、③大阪家庭裁判所岸和田支部のいずれかになります。

いずれが管轄家庭裁判所になるかは、以下をご確認ください。

堺市
高石市
大阪狭山市
富田林市
河内長野市
南河内郡(河南町 太子町 千早赤阪村)
羽曳野市
松原市
柏原市
藤井寺市
大阪家庭裁判所堺支部
岸和田市
泉大津市
貝塚市
和泉市
泉北郡(忠岡町)
泉佐野市
泉南市
阪南市
泉南郡(熊取町 田尻町 岬町)
大阪家庭裁判所岸和田支部
上記以外 大阪家庭裁判所

大阪府内の管轄区域表

訴訟(通常)の場合※

訴訟を行う場合も、管轄の裁判所を調べて提訴する必要がございます。ご本人で調べて頂き、本人訴訟を行うことも可能ですが、少なくとも提訴をする段階では、弁護士にご相談されるのが良いかと思います。

以下では、参考に、大阪地方裁判所(本庁)の基本情報を掲載しております。

大阪地方裁判所の基本情報
住所:〒530-8522 大阪市北区西天満2-1-10
電話番号:06-6363-1281(代表)

※140万円以下の請求の場合、簡易裁判所の管轄になります(下記)

■訴額が140万円以下の場合

訴額が140万円以下の場合、管轄裁判所は、簡易裁判所になります。この場合も、管轄裁判所を調べて、提訴する必要がございます。

以下では、参考に、大阪簡易裁判所(本庁)の基本情報を掲載しております。

大阪簡易裁判所の基本情報
住所:大阪市北区西天満2-1-10
電話番号:06-6363-1281(代表)

弊所のサポート内容

遺留分侵害額請求は、心情的にも実務的にも対応が難しい手続きです。

弊事務所では、複雑な法的手続きや感情的になりがちな家族間の問題に対して、冷静かつ戦略的な解決案を検討し、公平な相続の実現と家族関係の維持の両立を目指します。

無料初回相談から始まり、遺留分の正確な算定、交渉や調停・訴訟の代理まで、遺留分侵害額請求の全過程を通じて、依頼者の権利を守り、最適な解決策を導き出すためのきめ細やかなサポートを行います

■弊事務所での遺留分侵害額請求事件に関するサポート内容

  • 無料初回相談
  • 遺留分算定サポート
  • 内容証明郵便の作成、発送
  • 交渉代理
  • 調停・訴訟代理

遺留分侵害額請求で守る相続の公平性

遺留分侵害額請求は、相続における公平性を守るための重要な法的手段です。

配偶者、子、直系尊属といった近親者に認められるこの権利は、遺言や生前贈与によって最低限の相続分が侵害された場合に行使できます。

実際の遺留分を巡るトラブルでは、感情に流されずに必要な手続を見極め、粛々と進めなくてはならないことが課題になります。

第三者をクッション役にする」意味でも、弁護士などの専門家に介入してもらうのは有用です。

不安なときは、ひとまず相談することで、今やるべきことがクリアになり、気持ちの面でも落ち着いて対応できるようになるはずです。

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Leapal法律事務所について

遺言相続分野の取り扱い実績
・収益不動産等の多数の不動産を含む自筆証書遺言作成、公正証書遺言作成
・多数の資産を有する中小企業経営者一族の遺産分割調停事件
・遺留分侵害額請求に係る交渉、調停事件
・その他相続放棄、遺産分割交渉等
・第8回 遺言・相続全国一斉相談会 担当弁護士

検認手続について相談したい、弁護士に代理してほしいという方は、是非、一度、Leapal法律事務までご連絡ください。

検認手続き後の遺言の執行(遺言の内容を実現する手続)についてもサポートをしております。
遺言者の意思を最大限尊重し、遺言者の意思の実現に向けて尽力させて頂きます。

弊所では、初回60分間の無料法律相談を実施しておりますので、安心してご相談頂けますと幸いです。

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弁護士 山村真吾

弁護士 山村真吾

・ベンチャー精神を基に何事にもフレキシブルに創造性高く挑戦し、個々の依頼者のニーズを深く理解し、最適な解決策を共に模索します。|IT、インターネットビジネス、コンテンツビジネスに精通しており、各種消費者関連法、広告・キャンペーン等のマーケティング販促法務や新規サービスのリーガルチェックを得意とします。|一部上場企業から小規模事業まで幅広い業態から、日常的に契約書レビューや、職場トラブルや定時株主総会の運営サポート等の法的問題に対応した経験から、ビジネスと法律の橋渡し役として、法的アドバイスを行います。|その他マンション管理案件、氏の変更、離婚、遺言相続、交通事故等の一般民事案件にも精力的に取り組んでいます。

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