遺産分割は、相続人全員が参加し、合意に達しなければ成立しません。ところが、共同相続人の中に未成年が含まれている場合、通常の協議に比べて複雑な問題が生じます。
未成年者は法律行為を単独で行うことができず、親権者や特別代理人を通じて手続きを進める必要があるからです。さらに、親と子の利害が衝突する「利益相反」の問題が発生するケースも珍しくあります。
この記事では、共同相続人に未成年者がいる場合に必要となる「特別代理人」の役割や選任手続き、そして遺産分割協議を円滑に進めるための実務的な注意点を詳しく解説します。
「子どもが相続人になった場合どうすればよいのか」「遺産分割協議を進めたいが未成年者がいるために遅れている」と悩んでいる方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。
遺産分割手続きとは
遺産を遺して亡くなった人のことを「被相続人」といいます。この被相続人が亡くなると、相続が開始され、被相続人の財産は「相続財産(遺産)」として「相続人(法定相続人)」に受け継がれます。
相続人が1人だけなら、その相続人がすべての遺産を受け継ぐだけですが、相続人が複数人いる場合には、遺産をどのように分配するのかが問題となってきます。
この遺産の分配を取り決める手続きが「遺産分割」です。遺産分割は、複数人の相続人(共同相続人)全員の協議で決めるのが基本です。
遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて、裁判官や裁判所が選任した調停委員に間に入ってもらって話し合いをすることになります。
この遺産分割調停でも話がまとまらない場合には、裁判官がどのように遺産分割をするかを決める遺産分割審判へと移行します。
相続には、年齢制限などありません。未成年者でも相続人になることは当然あります。相続人が複数人いれば、その未成年者相続人も遺産分割をしなければなりません。
未成年者が遺産分割をするための条件:法定代理人による同意
前記のとおり、相続人が複数人いる場合、未成年者相続人も遺産分割をする必要があります。
もっとも、民法上、未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならないとされています(民法5条1項本文)。
これは、未成年者が未熟な判断力によって不利益な契約などを結んでしまうのを防ぎ、その未成年者を保護することに趣旨があります。
遺産分割も、財産に関する法律行為です。したがって、法定代理人の同意を得なければ遺産分割をすることはできません。
もし、未成年者が単独で遺産分割協議に参加し、合意してしまった場合、その合意は後から取り消すことが可能です(民法5条2項)。
しかし、これでは遺産分割協議がいつまでも確定せず、他の相続人にも不利益が生じてしまいます。
したがって、未成年者がいる場合は、法定代理人が未成年者に同意を与えて手続きをするか、法定代理人が未成年者の代理人として遺産分割を行う必要があります。
もっとも、未成年者に交渉などをさせて後から同意を与えるだけでは未成年者が不利益を被るおそれがあるため、法定代理人が未成年者の代理人として遺産分割を行うことになるのが一般的でしょう。
法定代理人との利益相反が生じる場合の実務対応
前記のとおり、未成年者相続人がいる場合、その法定代理人が未成年者の代理人として遺産分割をするのが一般的です。
未成年者の法定代理人とは、親権者または未成年後見人です。未成年者の父母が親権者として法定代理人であるのが通常でしょう。
しかし、この父または母も、未成年者とともに相続人となっているケースがあります。
例えば、父が亡くなって相続が開始した場合、配偶者である母と未成年者である子がともに相続人となるようなケースです。
この場合、共同相続人である親権者が未成年者の代理人として遺産分割に参加すると、親権者自身の相続分を増やすために、未成年者の取り分を不当に減らすといった事態が起こる可能性があります。
このような、「代理人(親権者)の利益と未成年者本人の利益が対立する」行為を「利益相反行為」といい、法律上禁止される行為です。
そのため、利益相反行為に該当する場合、親権者は、その未成年者である子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないとされています(民法826条1項)。
特別代理人とは?
前記のとおり、未成年者と親権者に利益相反がある場合、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければいけません。
特別代理人とは、未成年者と親権者との間で利益が相反する特定の法律行為を行うために、一時的に未成年者の代理人となる人です。家庭裁判所によって選任されます。
特別代理人には、利益相反関係のない相続人でない親族が就任することも可能です。
ただし、親族間での利害対立がある場合など、裁判所が未成年者保護のために親族では不適切と判断したときには、裁判所が選んだ弁護士などの専門家が選任されることもあります。
この特別代理人の最も重要な役割は、未成年者の法定相続分を確実に確保することです。
他の相続人が未成年者の取り分を減らそうとする不当な提案を拒否し、未成年者が本来受け取るべき財産が確保されるよう、公正な立場で交渉を行います。
特別代理人を選任しなければならないケース
特別代理人を選任する必要があるのは、未成年者相続人と共同相続人である父母との間に利益相反行為が生じる場合です。
遺産分割は、相続人の取り分が衝突する性質上、未成年者と父母が共同相続人となる場合には、ほぼ利益相反の問題が発生します。
そのため、未成年者と父母が共同相続人にいる場合、家庭裁判所で特別代理人を選任することがほとんどのケースで必要となります。
また、未成年者の子が複数人で、子同士の間で利益相反行為が生じる場合にも、特別代理人の選任が必要となります。
家庭裁判所への申立て手続きの流れ
特別代理人選任申立ての流れは以下のとおりです。
- 特別代理人選任申立書の作成:家庭裁判所のウェブサイトから書式をダウンロードすることもできます。
- 必要書類の準備:戸籍謄本など、申立てに必要な書類をすべて収集します。これらの書類に不備があると、手続きが遅れる原因となります。
- 家庭裁判所への申立て::未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書と必要書類を提出します。郵送でも可能です。
- 審問・面談:裁判所が必要と判断した場合、申立人や特別代理人の候補者と面談を行い、申立ての背景や候補者の適格性について詳しく聴取します。
- 特別代理人の選任:裁判所が提出された書類と聴取内容を基に、候補者が特別代理人として適任であるかを判断し、選任の審判を下します。
申立書には、特別代理人として選任してほしい人を推薦することも可能です。ただし、推薦した人が必ず選任されるわけではありません。
前記のとおり、家庭裁判所が未成年者保護のために必要と判断した場合には、裁判所が選んだ弁護士などの専門家が選任されることもあります。
申立てから審判までは、通常1か月〜2か月程度を要します。裁判所の混雑状況や必要書類の不足によって、それ以上かかる場合もあります。余裕を持ったスケジュールで手続きを進めることが重要です。
特別代理人選任の申立て時に提出する書類
特別代理人選任の申立ては、申立書を提出する方式で行います。この申立てには、以下の書類が必要です。
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 親権者(または未成年後見人)の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍の附票
- 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍
- 相続人全員の戸籍
これらの他、必要に応じて家庭裁判所から追加の書類の提出を求められることもあります。
特別代理人選任申立ての費用
特別代理人選任申立てには、以下の費用が必要です。
- 手数料(子1人につき800円):収入印紙で支払います。
- 郵便切手(数百円〜千円程度):裁判所によって提出する郵便切手の金額や種類が異なります。裁判所から当事者への連絡のために利用されます。使わなかった分は返還されます。
- 予納金
まとめ
共同相続人に未成年者がいる場合、遺産分割の手続きは通常の場合よりも複雑になることがあります。
特に、親権者と未成年者の利益相反を避けるために、特別代理人の選任が必要となるケースでは、時間も労力もかかります。また、安易に手続きを進めてしまうと、後から遺産分割が取り消される可能性もあります。
未成年者の権利を適切に保護し、円満な相続を実現するためにも、未成年者がいる相続では、相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士のサポートを得ることで、複雑な手続きをスムーズに完了させ、将来的なトラブルを防ぐことができるでしょう。

